XRQ技研業務日誌

ものづくりを楽しんでいます。日々の暮らしの中に面白そうなものを探しながら

タイミング

小さな無線機で運用しています。

 郵送でQSLカードを受け取った。いつも移動運用してくださる方からで、纏めてカードを送ってくださったのだ。手紙が添えられていて、「パイルが収まったタイミングで御応答くださるのでいつも問題なく聞こえてきております」と記されていた。この局は私がQRP運用していることをご存じで弱い信号をピックアップしてくださるのだ。

 実を言うと、QRPでの運用ではタイミングを見ることがとても大事なのだ。移動局を呼ぶ局はたくさんいる。CQを出し始め、そのCQに応えるように呼ぶ局が徐々に増え始め、その周波数が電波で埋め尽くされる。それをパイルアップと言うのだが、その中に割り込んでもQRPでは相手局に届くはずがない。競争相手になる局が少ない時でなければ交信できるチャンスは皆無に近いのだ。だからワッチ(聴取すること)に徹する。状況をみながらチャンスを狙うのだ。移動局が初めてCQを出す時がチャンスである。また、混信を避けるために「JA1?」などと制限をつけて呼び掛けを求めてくる場合もチャンスになる。そして、呼んでいる局がだんだんに減って、パイルアップが収まった時もチャンスになる。時には呼びかける局が居なくなったと判断され、移動運用を終了されてしまうこともあるのだが、そこもタイミングで、相手局の状況を把握する必要がる。

 また、電波はさまざまな経路で伝播するので自然の状況により聞こえ方が変化する。電離層などの変化で今まで聞こえていた局が徐々に聞こえなくなったり、逆に微かにしか聞こえなかった局が強力に聞こえだすこともある。その局と交信できるかは一期一会の偶然性によるのだ。先日九州の移動局が微かに聞こえていた。その局と交信している局も聞こえているが私の電波では届きそうもない伝播状況だった。そのうち徐々に私の近郊の局と交信をしているのが聞こえてきた。九州との電波の道が開けてきたようだ。そのタイミングを狙って呼びかけた。数回の問い返しを受けたがどうにか交信が成立した。チャンスを逃さないようタイミングを計って呼びかけるのもアマチュア無線の醍醐味である。 

 さらに難しいのが諦めるタイミングである。弱い信号で呼びかけていると相手局に微かに届いて、聞き返しを受けることがある。それに対して更に呼びかけるのだが、相手局は微かな信号を判別することは難しく、何度も確認が繰り返されてしまう。強力な信号なら数秒で交信が終わってしまうはずなのに、数十秒もやり取りが行われるのだ。たくさんの局にサービスをしている移動運用局に手間をとらせ迷惑をかけてしまう。伝播状況は刻々と変化しているので、次の瞬間には相手局に届くかもしれないと考えるとなかなか諦められない。しかし、無理な時は無理なので諦めることも必要である。そのタイミングを見極めるのは難しい。

 小さな電力の無線機で短いワイヤーを張っただけのアンテナからでも電波は飛んでくれる。さまざまな条件が味方してくれた時、偶然に開かれる道をねらって交信する。タイミングを楽しむのだ。うまくいかないことの方が多いのだが、成功した時の達成感は大きい。
 自然を相手にし、運用している相手の状況を推察しながら無線機の前に座る。QRPだからの楽しみ方かもしれない。相手をしてくださる局の寛容と忍耐に感謝して。