もの作りはしっかりした理論とそこから導かれる数式に頼るのが普通だろう。しかし、無手勝流でも楽しむことは出来る。実験を繰り返すのだ。何を作りたいかの目標と、その目標に近づいているかを確かめるデータがあればいい。
今回作りたかったのはマルチバンド・バーチカルアンテナ。切り替え機構によって複数のバンドで使える垂直ワイヤーアンテナだ。1本のエレメントで複数のバンドで整合を得るためにはローディングコイルを使う。電気的にエレメント長を伸ばすものだ。コイルをどのように作ればよいか実験を繰り返した。データを見ながら少しずつ巻き数などを変更して目標に近づけていく。
私の測定器は簡易なアンテナアナライザーだけである。周波数帯を設定し、その周波数付近でのアンテナのインピーダンスとSWRをグラフ表示してくれる。これを使って7MHz、10MHz、14MHzで使えるアンテナを目指した。
まず、14MHzのアンテナを作る。カウンターポイズとして3m長ワイヤーを3本纏めて給電部のBNCコネクタのGNDに取り付けた。芯線部にエレメントを取り付ける。エレメントの長さは4分の1波長ほどになるはずだ。実際に伸展して測定する。少し低い周波数に整合点があった。エレメントの先端を切り、目的の周波数に整合点を追い込んでいく。
次に10MHzでの整合を得られるようコイルを挿入する。エレメントの地面に近い方に入れるか上の先端に近い方に入れるかによって必要なコイルの巻き数が異なる。下側ほど少ない巻き数になる。アンテナの先端部に近く設置する方が電圧分布の腹が上がるようだが巻き数が多くなってしまう。エレメントの真ん中より少し上ぐらいがよいだろうと漫然と考え、適当な巻き数のコイルを挿入する。測定するとねらっている周波数よりも高いところで整合している。巻き数を増やしてねらった周波数で整合するように調整する。
最後は7MHzのコイルを作る。10MHzのコイルの巻き数に追加してコイルを巻く。測定すると6MHzほどのところに整合点が出ていた。巻き過ぎてしまったようだ。巻き数を減らして目的の周波数で整合するように調整する。
ローディングコイルをパスするように配線すると14MHzのアンテナとして、7MHzの追加したコイル部分をパスするように配線すると10MHzとして、コイルをすべて挿入した状態にすると7MHzのアンテナとして機能するものができた。
製作の流れを書いてしまうと簡単だが、途中はカットアンドトライの繰り返しである。データを見ながら少しずつ手を入れていくことでねらったところに近づいていく。この過程が楽しい。思いもよらない結果が出て悩むこともあるが、その原因を探すのも楽しみである。測定器一つでも実験を楽しめる。さらに自作のアンテナで交信する楽しみもある。アマチュア無線の楽しみ方は奧が深い。