XRQ技研業務日誌

ものづくりを楽しんでいます。日々の暮らしの中に面白そうなものを探しながら

電報

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額表を使って電報の送受信をする

 NTTはその昔、電電公社と呼ばれていた。日本電信電話公社の略である。明治時代に東京と横浜の間を電線で結び、電話や電信のサービスが始まったことに由来する会社である。公衆への通信手段の提供という公的な事業であることから政府の直轄事業として設置され、国内の電気通信を日本電信電話公社(現NTT)が、海外との通信は国際電信電話株式会社(現KDDI)が担っていた。1985年の電気通信事業法によって民営化され、現在では多くの企業が担う事業になっている。 
 電信はペリーがもたらした電信機で有名である。電気通信は最初は電信による電報が扱われていたが、まもなく電話によるサービスも始められた。電報は1963年をピークに衰退傾向になり、今やデータ通信が主流になっている。
 電報は今では祝電や弔電が主流になっているが、昔は儀礼ではなく日常生活の通信手段として使われていた。電話機が普及していなかった当時、遠くに離れた人に急用で知らせを送る手段は電報しかなかった。電報局に依頼すると、電報局同士で通信が行われ、相手に近い局から電報配達員が直接その電報を届けてくれた。郵便よりもずっと早く届けられる通信手段だったのである。また、船舶など有線で繋ぐことのできないところにいる人には無線局同士で電報の送受が行われた。

 今の電報はデータで送受されているが、当時の電報は手送り電信によって一文字ずつ送受された。本文の字数によって料金が決まるので、できるだけ短い文字数で内容を伝えることが必要であった。
・サクラ サク  試験に合格したことを知らせる電報。ちなみに不合格はサクラ チル
・ケサ七,一0オンナアンザン」ボシイゼウナシアンシンセヨ」 女の子の誕生を知らせる電報
・サチ(サイワイ)エ(エダ)トメイメイス」  幸枝と命名したことを知らせる電報
・オネガイノケンイカガナリシヤ、ウナヘン 至急返事を求める電報
・ワレ3ヒマデニカエルヨテイ  3日までに帰る予定を知らせる電報
・サクデンウケタ」ホンセントウケウニチヨクコウス」センテウ 船長から昨日の電報に応えて東京に直行することを返事する電報
・アスコ八ジテウケウエキニツク、ムカエコウ 明日午後8時に東京駅に着くので迎えに来てほしいという電報
 
 今ではメールやSNSなどにより個人同士が情報のやりとりができる時代になったが、公衆通信を利用しなければ情報を送ることができなかった頃、電報は最速な唯一の通信手段だった。その大事な一文字一文字を和文モールス符号の手送り電信で送受していた通信士の方々の活躍によって成り立っていたシステムである。今では和文モールス符号を使う通信はごく一部でしか行われなくなってしまった。その人たちが鍛錬を経て身につけた技能をぜひ残していきたいものである。電文の短い言葉の中に人々の深い思いを感じるのだ。