私はアマチュア無線の同好の志が集うA1Club(エーワンクラブ)に参加させていただいている。A1とは無線で電波形式の「CW電信」を表わす記号である。電波法上でA1(主搬送波を振幅変調し、変調用可聴周波数を使用しない電信)と定義されている。そして 電信は、聴覚受信を目的とする電信A1Aと、機械による自動電信受信電信A1Bと分類されている。もちろん、私のやっているのは手送り、耳で聞き分けるA1Aだ。
このクラブは入会条件が「CWが好き」「モールス通信に興味がある」それだけという、いたって緩い集まりで、電信を楽しんでいる。1998年に発足メンバー11人によって始められ、私がメンバーに加えていただいたのが2003年、今年は創立20周年と言うことになる。
設立趣意書に中に「CWはその効率の悪さ故、ついにプロの世界ではその使命を終え消え去ろうとしています。 効率第一、能率優先、無駄の切り捨て、などとストレスのたまる昨今、せめて趣味の世界でCWを肴に楽しんでいたいと思いませんか。」という文言がある。特殊な例を除いて、電信が商業利用される場面がなくなり、アマチュアの資格試験でもモールス符号の送受信という実技がなくなった。人が自身の頭を使って行うデジタル通信としてのモールス符号が、このままでは記録としてしか存在しなくなってしまいそうだ。モールス符号は実際に通信に使ってこそ意味があると思う。技能として残していくためには、アマチュアがその楽しさ、おもしろさを若い人達に伝えていくことが大事だと思うのだ。
モールスの習得にはいくつもの壁があり、時間のかかるものだ。しかし、アマチュア無線を始めて、高度な技術を使いこなし、通信できるのが当たり前のような状況を経験すると、この原始的とも言える通信方法のおもしろさに回帰する人が多いようだ。短点と長点の組み合わせという単純な音の断続の中に、思いの外多くの情報を込めることができる。ある意味ではモールス符号を聞いていると、それを打つ人のその時の心の状態までわかるように感じる。だから、一度モールス符号に入り込むと、その魅力に取り込まれてしまうのだろう。
モールス符号で通信することのメリットとして、機材がシンプルであることが挙げられるだろう。送信機は電波の断続だけで良く、符号を作り出すのも電鍵やパドルなので自作することも可能だ。さまざまな工夫をすることも、ものづくりも楽しめる。
A1クラブは現在3000名を越えるメンバーを擁するようになった。その中には海外局との交信、QRP(小電力)通信、移動運用、和文による交信、などさまざまな楽しみ方をしている人達がいる。みなさん、「電信が好き」という人達だ。20周年の今年、さまざまなイベントで「電信」を盛り上げていきたいと思う。
写真は20周年の記念品として作成されたマグネットと手作りパドルである。