XRQ技研業務日誌

ものづくりを楽しんでいます。日々の暮らしの中に面白そうなものを探しながら

CPR訓練アシスト

アスクレピオス 休憩救急のシンボル

 救命処置をご存じだろうか。何らかの事情で呼吸が停止し心臓が正常に機能しなくなった場合、その場に居合わせた人が施すことで少しでも血流を確保し救命に繋げる対処方法である。救急隊を呼んでも10分以上かかってしまうという現状で、その場に居合わせた人の行動が大事なのだ。そのため、誰もがこの処置を行えるよう多くの体験や講習が行われている。その内容は主に体外式自動除細動器(AED)の取り扱いと心肺蘇生(CPR)の方法で、救命処置を行いながら傷病者を救急隊に引き継ぎ、医療機関に繋げるまでの応急手当である。
 啓発活動はさまざまな機関が行っている。小中学校や高校、町会や防災会などでの消防署が指導する体験型のものと救急協会などが行う規定のカリキュラムによる講習などがある。そのほとんどが全体での救命処置の概要説明の後、グループに分かれてレサシという人形を使って実技の訓練を行う流れである。傷病者を見つけたら自分自身の安全確保を行い、傷病者に声掛けをして傷病者の状況を確認、反応がなければ周りの人に呼びかけてAEDの搬送と119番への通報を依頼する。そして呼吸の有無を確認し、呼吸をしていないか不明な場合には胸骨圧迫の心臓マッサージという手順で処置を行う。
 胸骨圧迫は成人で胸骨が5cm沈むほどの強さで毎分100~120回のテンポで行うとガイドラインで示されている。胸骨のどの部分をどのくらいの強さで押すのかという部分が大事なのだが、この100~120というテンポを初めての心肺蘇生体験者に示すのも難しい。メトロノームのように音を出す装置も市販されているが、大人数を相手にする場合には、使い勝手で不便なこともある。大きな会場での体験や講習がほとんどなので全体への提示の場面では良いのだがグループに分かれての提示では困ったことが起こる。大きな音を出すと他のグループの迷惑になり、音が小さいと自分のグループにも聞こえづらいのだ。
 このテンポの音だけでなく人々の話し声などさまざまな音が入り混じる講習会場で音による指示には限界があると考えた。CPRのテンポを知らせるのなら、光での提示だけで良いのではないか。CPRを行いながら実施者は傷病者の顔や全身状態に目を配っているる。その視野の中に光の点滅が入れば自然とテンポを知ることができるはずだ。
 これまでいろいろな訓練アシストの機器を作ってきたのだが、今回の改造はこのような意図からとてもシンプルなものになった。スイッチを入れれば毎分110回のテンポで光が点滅するという機能に絞った。電池を含め全てをボトルキャップ2個を合わせた中に収めて小さく可愛いフォルムにした。本当はキャップ1個の中に収めたかったのだが、スイッチが嵩張ってしまい多少大きくなってしまった。それでも手のひらの中に納まるコンパクトさである。音は小さいが光と一緒にテンポを刻む。取り扱いも容易である。
 これは、レサシ人形の胸を押し、押す位置と押す強さを繰り返し体験するCPR訓練でレサシの傍らに転がして置くことでテンポを示してくれるガジェットである。

 多くの人が救命措置について知ってもらい、万が一のとき誰でもがバイスタンダーとして皆で協力し合いながら活動できるようになる、その一助になればと願っている。

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