
AQP(A1 QSO Party)というイベントが行われた。電信を使って電鍵を話題とした交信をしようというものである。電信はモールス符号を使って一文字ずつ文章を送るのでコミュニケーションツールとしては効率が良くない。今だからそう感じるのだが発明された当初は遠隔地と交信ができる便利なものだった。その原点に戻って交信を楽しもうというイベントをA1クラブが提唱したのだ。ルールは簡単で通常の交信の中で電鍵について紹介しあったり話題にしようというものである。
その昔、私が電信の免許を取得したばかりのころ、聞き取った符号を一生懸命筆記して交信していた。欧文だったのでローマ字を使っていた。名前を紹介したりどんなリグやアンテナを使っているか、天候についてなど長い時間を使って交信したものである。英語の平文で交信すればよいのだが英語を習い始めたばかりでスペリングがすぐに出てこないためローマ字だったのだ。単純な音の組み合わせだけで意思を伝えられることに夢中になった。
和文が使えるようになると通常の平文で「こんにちは、お久しぶりです」から始まり「またお会いしましょう。ごきげんよう、さようなら」まで1時間近く会話を楽しむこともあった。
母語が英語ならば欧文でも同様に会話ができるのだろうが、符号を聞き取りながら頭の中で文章を組み立てていくのはなかなか難しい。そのためか、さまざまな略号が使われていて大まかな会話は略号の組み合わせでできるようになっている。「WX FINE TEMP 18C HAVE GUD DAY GB」これなら筆記しなくても符号を聞きながら内容が理解できるのだ。
本来は情報伝達のコミュニケーションツールである電信だが、さまざまなメディアやツールが身近になる中で電信で話をする機会は減っている。電信のこの機能を残していきたいとの思いからA1クラブではさまざまな取り組みをしてきた。その流れにあるのがこのイベントだった。
普段は電離層など自然条件によって伝播状況がめまぐるしく変化する中で互いが電波によって繋がることを楽しむことが多い。RST(Readability・Signalstrength・Tone 了解度・電波強度・音質)を交換すれば交信成立というスタンスである。ノイズに埋もれそうな信号に耳を澄ませ、浮かんできたり沈んだりする微かな音から情報を得るには電信が適しているのだ。こうした交信はスリリングで達成感も大きい。
電信で一文字ずつ言葉を送りあうのは悠長で、取り組む人が減っているのも現状である。情報伝達ツールとしての電信を残そうとイベントが行われたのだが、残念ながらAQPという語はまだ一般的になっていない。5月1日から15日までの実施期間でバンドをワッチしていてもこの語を耳にする機会は少なかった。さまざまな楽しみ方がある電信の世界でこうしたイベントが盛り上がりを見せ、電信が受け継がれていくことを願っている。