JARD(日本アマチュア無線振興協会)が「アマチュア無線に関心をもつ若年層が増加することを期待して、若い世代に魅力あるアマチュア無線とするためのアイディア」を求めている。
今は映像や動画、テキストが表示されるのが当たり前になっている。特に文字はキーボード擬きから入力すれば漢字などへの変換をしてくれ、もし間違って入力した場合には編集することもできる便利さである。通信ではそのデータがどのように送られているかを意識することなく便利に使っている。
それに比べてモールス符号を使った電信は一文字一文字を短点と長点、スペースの組み合わせの符号に変換して電波の断続という仕組みでシリアルに送る。間違えて送った場合には、訂正符号を冠して訂正する部分を再送信しなければならない不便さである。和文のモールス符号もあるが、漢字が送れるわけではなくひらがなかカタカナである。濁点、半濁点はあるが、促音を示す小さな{つ」や「や、ゆ、よ」などはないので、言葉の前後関係から内容を推測するしかない弱点もある。何よりも一文字一文字、順に送るので通信速度が殊の外遅い。
技術が進歩し便利な方法がさまざま開発されたお陰で、この不便なモールス符号による情報伝達はごく一部でしか使われなくなった。それでもアマチュア無線ではモールス符号通信が健在であり、最近では新たに電信モードを使ってみようという人も増えてきている。
電話やデータ通信などさまざまなモードがあるアマチュア無線で、CW(電信)のどんなところに魅力があるのだろうか。それは電信の奥深さなのではないかと思う。
耳で電波の断続を聞き、モールス符号を解読して何を意味しているかを知り、電鍵やパドルを操作してモールス符号でこちらの意図することを送信する。手間の掛かる作業だがその過程を楽しんでいる。モールス符号を習得することは難しいのだが、難しいが故に自らの技能を高めていくところに喜びがあるのだ。言葉を覚えることと同じように、音の断続がひとつの塊として文字を想起できるようになり、符号の塊が語として想起できるようになってくるのは嬉しいものである。達成感が味わえるのだ。
さらに、電信の特性としてノイズに埋もれたような微かな信号の中から意味のある文字列を見いだし交信できる経験をすると、電信をやっていてよかったという気持ちが湧いてくる。努力したことが報われる成功体験である。
技術の進歩と併走してきた昔のラジオ少年にはこのおもしろさがわかるのだ。若い人たちにとって現在の便利は当たり前であり、あえて不便なことに取り組もうとは思わないだろう。しかし、人は自己実現が喜びとなり意欲に繋がる。アマチュア無線の活動の中に電信モードあることを知ってもらえばアマチュア無線に新たな魅力が開けてくるのではないかと考える。次世代を育成するには電信のおもしろさを伝えていく必要がある。モールス符号の習得の難しさこそ、そのおもしろさの原点である。難しいからやらないではなく、人間はこんなこともできるんだということを周知していくことが大事なのだろう。そして初心の方たちを支援する仕組みを整えていくよう努めていきたい。