同調や整合がしっかり取れたアンテナでなくても、とりあえず電波が出ればよいという状況がある。そのような時、設営の容易なRandon length Antenna(ランダム長アンテナ)を使うことがある。波長に対してきちんとした長さではないが、給電位置を工夫することでインピーダンス変換コイルを使って給電するものだ。一般に、終端部から給電することが多く、この場合、同軸ケーブル(COAX)を使わず、リグとアンテナを直接接続して使うこともできる。何とも手軽なアンテナである。
ランダム長とは言っても、使う周波数によって使える長さが決まってくる。エレメントに電波が乗っているのでエレメントのそれぞれの位置でインピーダンスが異なる。特定の長さのエレメントにすれば終端部のインピーダンスが複数の周波数で同じようになるものがあるのだ。そこでトランスフォーマーを使って給電点のインピーダンスが50Ωに近似になるような長さを探し出して給電する。特定の長さは実験から多くが見いだされており、ネットに公表されている。これをマルチバンドアンテナとして使うことができる。
「取り敢えず使えるアンテナ」というコンセプトで実験をしてみた。1本のワイヤーでマルチバンドで使うアンテナである。あまりSWRは低くはないがそれなりに電波が乗ってくれるアンテナである。扱いやすさを考慮してエレメントの長さは11mで終端給電とし、インピーダンス変換は9:1のトランスフォーマーを用いている。BNC変換コネクタを使ってリグに直接接続でき、収納時にエレメントワイヤーを巻き取る枠となるようにアクリル板を細工して組み上げた。
XRQTechLabサイト 9:1トランスフォーマー
実際にエレメントを伸展して測定してみると7MHz、10MHz、18MHz、21MHzでSWRが2前後の値を得た。決して良好な値ではないが、全く電波が乗らない状態ではない。効率が悪いことを承知の上で、「取り敢えず」という理解ならばどうにか使えそうである。波長から言えば11mという長さは14MHzの半波長に近いのだが、14MHzではSWRが高く使えそうにない。また21MHzではSWRが1に近い値まで下がっていて十分に使えそうである。
電波は不思議である。効率を求めればさまざまな工夫ができるのだが、今回の実験のような簡易なものでも電波は飛んでくれる。その微かな信号を取ってくれる人がいれば交信ができる。 QRPは出力電力だけではない。このような貧弱な設備での運用もQRPと言ってもよいのではないか。
「取り敢えず」というコンセプトでの試みをしたのだが、この試みはQRP前提である。もし大電力で、整合の不十分な設備を使ったら周りに迷惑をかける畏れがある、慎まなくてはならない。