XRQ技研業務日誌

ものづくりを楽しんでいます。日々の暮らしの中に面白そうなものを探しながら

認識の格差

shig552009-05-24

30℃近くまで気温が上がり夏日になる日があるかと思うと、今日のように薄い上着が欲しいような肌寒い日もある。北の寒気が南下してきたり、太平洋の高気圧が優勢になったり、大気の変動がめまぐるしいこの頃である。

新型インフルエンザが発生し、必死の水際対策をしていたがあっさりと裏をかかれたように思わぬところから新たな感染者が見つかり、感染の広がりを見せている。鳥インフルエンザからH5N1型の新型インフルエンザが発生するのではと言われていたが、ブタの体内での変異によって人から人に感染するH1N1型の新型インフルエンザになったようだ。季節流行のインフルエンザ並みの症状ということだが、まだわからないところが多いようだ。

誰もが感染を恐れているところだが、先日関東圏の高校生が感染したニュースが流れたとき、驚いたことが起きていたようだ。自宅で発症した高校生は発熱外来を経て病院に収容されたようだが、その高校生が在籍する学校は感染防止とのことで休校措置がとられた。その学校へこんな電話があったという。「我が子の通学経路が、その休校した高校の多くの生徒が利用している路線と同じである。もし我が子が感染したらどう責任をとってくれるのか」
”わが子を思う親心”と言ってしまえばその通りだろうが、インフルエンザの感染についてまで、その責任を他人に求める感覚に、わが耳を疑ってしまった。

空港や港での機内検疫や船内検疫、サーモグラフでの発熱者対応などさまざまな水際対策をとってきたが、ウィルスの侵入は阻止できなかった。専門家は早くから対策を練り計画を進めてきたそうだが、すべての侵入経路をカバーすることはできなかった。発症サーベーランスのシステムも有効に機能しないまま新たな感染が起きてしまった。関係者の皆さんはさまざまな情報の中で最善を尽くされたのだが、人知の知れないところで事態が進展してしまったのだと思われる。

現場にいる人にとってはこのように、最善を尽くしていても人知の知れないことが起こりえることは周知の事実である。すべてがわかっているわけではない。それでもその時点で最善を尽くしている。
休校を決めた学校の責任者にしても、感染経路がすべて把握できているわけではないが、万が一、学校が感染の機会となってしまうことを恐れて休校という措置をとったのだと思う。在校生の行動範囲まで、まして通学に使っている路線が感染経路となるか否かまで把握しているわけではない。感染が人知の及ばないところで起こりうることを承知しながらも、できうる限りの対策をしているのだと思う。

しかし、先の電話を掛けてきた人はどのような認識を持っているのだろうか。水際対策などさまざまな対応をしていると報道されている。学校も休校措置をしているとニュースで伝えられている。情報として入ってくるのは事実だけである。そのような背景の中でその事実が起きているのかは知らされない。対策されていることでインフルエンザの感染防止が完全であると信じてしまうのではないか。さまざまな苦悩の中で決断されているなどとは思いもよらないのではないだろうか。だからこそ、感染の拡大など思いもよらないことが起こると、その判断をした人を責めてしまう。物事に対する認識があまりにもかけ離れてしまっている。

情報化は知ろうと思うことを容易に知ることができる恩恵をもたらした。しかし、必要以上に情報がもたらされることでその内容を十分に理解できず、表面的なことで物事を判断してしまうことが起きているようだ。認識の深さの差が拡大しているのである。また、認識が浅い人も深い人も同列に意見を出すことができる。玉石混淆の混乱状態である。さまざまな情報が手にはいるからこそ、一人一人がその情報を吟味し、しっかりと地に足の付いた判断をしなくてはならないのだと思う。

さて、この新型インフルエンザの終息はどのような形になるのだろうか。とりあえず治まってきても、秋口にまた広がってくることも予想されている。目に見えない強敵との戦いは続きそうである。