XRQ技研業務日誌

ものづくりを楽しんでいます。日々の暮らしの中に面白そうなものを探しながら

アンテナで遊ぶ

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アンテナ工作でもサイト情報を利用させてもらっている

 送信機で作られた電波はアンテナから空中に放出される。周波数によって波長の長さが決まってくるので、その波長に合った長さのアンテナを使うのが効率としては望ましい。しかし、設置場所の制限や運用形態によっては波長より短いアンテナを使うことがある。整合回路によって給電点のインピーダンスを調え、SWRを最小になるようにして使用する。当然、短縮することによる放射効率の低下は否めないが、そこそこ飛んでくれるのが電波である。
 ダイポールという形式のアンテナが基本だが、さまざまなアンテナが考案され運用されている。私もEFHW(半波長終端給電アンテナ)、バーチカル(垂直1/4波長)、MLA(マイクロ ループ)などを実験してきた。ワイヤーアンテナが主だが、その周波数の波長に合わせるようにコイルを挿入し、給電部のインピーダンスを50Ωになるようトランスフォーマーで整合を取る。エレメントの長さがほんの数センチ異なるだけでも、ローディングコイルの巻き数が1回違うだけでも、巻き方の粗密を変えるだけでもSWRの値は異なってくる。
 試行錯誤を繰り返しながらアンテナとして組み上げていくのだが、そのアンテナで実際に電波がどのくらい飛んでくれるかを確かめたいものである。

 伝播状況は地球の営みと宇宙の状況によって時々刻々と変化している。その状況を知るにはNICT(情報通信研究機構)のサイトを利用させてもらっている。そのサイトの”宇宙天気情報センター”の「観測」というところに”電離層ワーキンググループ”という電離層の状況をリアルタイムで観測しているところがある。稚内国分寺・山川・沖縄の4か所の上空の電離層の発生状況が見られる。電離層の状況を見ながら発信する機会をとらえると広い伝播が期待できるのだ。
 またWSPRnet(The Weak Signal Propagation Reporter Network)というサイトがある。定められたプロトコルによって発信した電波を世界中の協力局が受信して、その結果をネット上にレポートしてくれるものだ。耳では聞き取れないような微かな信号でもPCが解析して局名・発信地・電力などをサイト上に表示してくれる。これを使わせてもらうと、そのアンテナからどこまで飛んでいるのかを世界地図の上で確認することができる。

 ニッパーとメジャーだけで作ったアンテナが動作してくれたときは嬉しくなる。私はQRPと自作アンテナの組み合わせで国内や近隣の外国局との交信を楽しんでいる。アンテナづくりは手軽にできて興味の尽きない分野である。これも、NICTやWSPRnetなどのコンテンツを利用させてもらうことでより楽しめる。ありがたい。
 かつてJH1FCZ 故大久保忠さんがヘンテナという面白いアンテナを紹介された。50MHzバンドでよく利用させてもらった記憶がある。今では優秀な解析ソフトが出来ているようだが、無手勝流でワイヤーをこねくり回し、電波と戯れるのも一興である。

QRPでDX?

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ビューロー経由で得たQSLカード


 私はシンプルな設備でアマチュア無線を楽しんでいる。数ワットの小出力トランシーバーで、アンテナは2階の高さほどに伸展したワイヤーアンテナである。こんな貧弱な装置でも北海道から沖縄、小笠原諸島まで国内の局とは交信できている。当然、伝播コンディションの良くない時には何も聞こえないこともある。
 伝播の状況は複雑で、国内がよく聞こえる時もあれば一部の地域しか聞こえない時もある。電波は電離層と地上の間を反射しながら飛んでいくので、どの高さにどの程度の電子密度の層が出来るかで到達距離が違ってくるのだ。また、伝播する経路によって減衰の状況も異なるので、特にQRPの小電力ではその影響を受けることが大きい。
 遠距離(DX)といっても普段なら北海道や九州の局が強力に入るくらいなのだが、時として海外の局が入感することがある。海外の局にはアンテナフィールドという広大な敷地に数十mの高さに巨大なアンテナ群を設置して、私の出力の数百倍の電力で送信してくる局もあるようだ。そのため、相手の局が聞こえるからと言って私の微弱な電波が相手に届くとは限らない。それでも相手の局が巨大なアンテナ群でこちらの弱い電波を捕まえてくれることがある。

 2020年から今日まで約1年7カ月間の交信記録(ログ)を見直してみた。すると海外の約40局と交信できていた。内訳はアジア側ロシア 14、韓国4、中国1、欧州側ロシア13、オーストラリア3、フィリピン1、スプラトリー諸島1、セルビア1、USA2であった。また、使用した周波数帯は3.5MHz 2、7MHz 18、18MHz 12、21MHz 5、24MHz 1、28MHz 2であった。やはり近隣の国々が多い。また、低い周波数での交信が多い。国内に伝播するのと同じような状況で少し遠距離まで飛んで行ったのだろう。しかし、高い周波数の場合はスポラディックE層と呼ばれる強力な電離層が発生した場合に、遠距離と繋がる場合があるようだ。
 私の場合、国内との交信を楽しむことが主なので、運用時間は日常生活に合わせたものである。そのため伝播状況だけでなく、海外の局の運用時間に合わせることはしていないので交信数が少ないのだ。相手の時間帯を考えて運用すればまた状況は変わるかもしれない。
 小さな設備で海外との交信を楽しむのには無理がある。ある程度の送受信設備が必要なのは当然である。しかし、時には海外の局と交信ができるというスタンスであるならば、こうしたQRPアマチュア無線も楽しめるのではないだろうか。送られてきたQSLカードの巨大なアンテナの写真に感嘆の声を上げながら、掌に乗るようなリグからワイヤーを流れ、空に飛び出していった電波がよくもあそこまで飛んで行ってくれたと感慨にふけるのも一興である。
 数年前から進められてきた新スプリアス基準による規制が「当分の間」延期になるそうだ。自作のQRP機はほとんどお蔵入りと諦めていたのだが、まだ使えるようだ。
 何度も何度も聞き返してもらうような微弱な信号で相手局に迷惑をかけてしまうのだが、自然の営みのなかで電波を使う楽しみを続けたいと思う。

クイック設営、クイック撤収

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手軽に設営するためのアンテナ

 移動運用の場合、現地の状況にもよるが、広い場所を取ることが難しく周りに遠慮しながら設営しなければならないことがある。また、人の流れによっては短時間での設営撤収が必要な場合もある。
 設営で特に時間のかかるのがアンテナ設営だ。アンテナの転倒やコード類の取り回しで迷惑をかけるわけにはいかない。できるだけその場の状況に影響を与えないよう配慮する。しかし、大がかりな設営になってしまうと、撤収にはそれだけ多くに時間がかかり、気楽な移動運用とはならなくなる。 
 車での移動の場合にはモービルホイップアンテナを設置しておけば、現地の駐車場などに到着次第、何等の作業もなく運用が始められる。高速道のSAやPAから短時間運用をされている局も多い。しかし、徒歩主体の移動の場合、出来るだけ荷物を少なくし、コンパクト軽量、さらにすぐに設営・撤収のできることが望ましい。
 MLA等のコンパクトなアンテナはこの運用に向いているが、効率という面では難がある。ロケーションが良く、伝播状況に恵まれ、そこそこのパワーを使う場合に向いている。QRPでの運用ではある程度効率の良いアンテナが欲しい。とは言ってもフルサイズのアンテナを伸展するとすれば大がかりな作業になってしまう。すぐに設営でき、撤収も容易なアンテナを考えてみた。

 場所を取らないアンテナとしてはバーティカルが最適である。現地の杭などを活用してポールを伸ばし設営すればすぐ立てることができる。エレメントはモノバンド仕様として予めカウンターポイズとともに調整を取っておく。設営状況によってSWRなどは変化するが、カウンターポイズの張り方で改善できることもある。
 今回は7MHz用のバーティカルアンテナを製作した。5mのグラスファイバー振り出し式釣り竿(仕舞長65cm)を使い、エレメント、カウンターポイズとも5mのワイヤーである。この長さでは同調を得ることはできないので、ローディングコイルを使う。まず、ワイヤーを釣り竿の先に簡単に取り付けるため10mmφ程のプラスチィックパイプを使う。ただ被せるだけでは勿体ないのでトップローディングとしてコイルを巻いた。給電部はBNCコネクタを直付けし、GNDにカウンターポイズを接続する。しかしトップローディングだけでは整合が取れないため、ベースローディングとしてT68#2のトロイドコアを用いてコイルを巻いた。カット&トライで巻き数を調整し、7MHzでほぼSWR1となるよう追い込んだ。

 このアンテナなら、ワイヤーの先端を釣り竿の2段目(1段目は柔らかすぎて不適)に被せ伸展し、カウンターポイズを調整することで運用を始められる。釣り竿を固定するために伸縮性のベルクロ付きテープを持ち歩いている。高さもあまりないのでこんな簡単な支持でもとりあえず設営できる。
 アンテナの大きさと効率は比例するようで大きいに越したことはないが、取り扱いの簡便さとの折り合いからの選択である。早く他県への移動運用ができるようにコロナ禍の収束を祈るばかりである。

面白さをつくる

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ホームセンターで入手した部品でパドルを作る

 アマチュア無線のイベントの一つにコンテストがある。コンテストは交信数を競うのだが、それぞれ工夫された規約・ルールがある。高得点を得るためには設備を充実させたり、運用場所を選んだり、運用する周波数や時間を選択したり、さまざまな工夫をする。当然、運用テクニックも重要である。自分の持てる力を最大限に駆使し、競技に臨む面白さである。
 しかし、私のように貧弱な設備とテクニックではほかの人と競うような得点は狙えない。それでも、コンテストではたくさんの局がお空に出てくるので、交信の機会が増す。自分だけの楽しみをするチャンスでもある。
 ●アンテナのテスト。自作アンテナがどの程度実戦で使えるかのテストである。測定上は整合が取れて使えるように見えても、効率がどの程度かは運用してみなければわからないからだ。強力に聞こえる局に呼びかける。たくさんの局に埋もれてしまい、コールバックが得られない。アンテナの効率が良くないことを実感。早々に退却する。
 ●あまり出ない周波数帯への挑戦。アンテナの設備がなく、出ることのないバンドに出てみる。V/UHF帯で使えるのは50MHzのダイポールだけである。電信では普段ほとんどお空に出ている局はないので、この周波数帯での交信数は極端に少ない。しかし、この日はコンテストのおかげでいくつもの局が聞こえる。呼びかけても応答してもらえないことも多かったが、50MHzではそこそこの局と交信できた。144MHzは50MHzのダイポールでは整合が取れないのだが、強引に送信をしてみる。するとトランシーバーの保護回路は働かず、送信することができた。都内や神奈川、埼玉の局と交信する。気をよくして430MHzでも試してみる。聞こえる局数は少ないが数局と交信することができた。無茶な運用ではあるが、コンテスト中だからの面白さである。
 ●QRPでの運用。いつもの3W出力、EFHWアンテナが主での運用である。伝播のコンディションに合わせての運用になる。今回は近隣の電波は聞こえず、遠くが聞こえていた。北海道の局と交信しているうちにだんだん聞こえなくなり、九州の局が聞こえ始めた。聞こえる局に呼びかけていく。なかなか応答がないのだが、伝播の状況が良くなった瞬間こちらの信号が相手に伝わり、QRZ JA1・・?と返してくれることがある。QSBといって波のうねりのように聞こえ方が変化する。何度も何度もこちらのコールサインを送信し、相手局から トッ ツーーー ト と返事がある。毎回微弱な信号を送る私の局であることがわかってくれたようだ。了解を意味するR(・-・)という符号に相手局の気持ちが込められているように感じる。微弱な信号で相手局に迷惑をかけているのだが、相手局がそれを理解してアマチュア無線を楽しんでくれている姿が窺えて有り難く感じる。
 
 自分なりに狙いを定めて、コンテストという場を利用させてもらい、楽しみ・面白さを味わわせてもらった。楽しみ・面白さは与えられることもあるのだが、自分で作ることもできる。チャレンジすること、自分なりの狙いを定めること、主体的に取り組むことで面白さは得られる。お金のかからない楽しみ方である。

6m AND down

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昨年のものですが、参加証

 波長が6mよりも短い周波数、すなわち50MHzよりも高い周波数を使った交信を競うコンテスト、6m AND downが7月3日15:00から4日21:00にかけて行われた。例年ならばさまざまな趣向を凝らして大いに盛り上がるコンテストなのだが、今回は状況が違った。ここ数日、線状降水帯が本州付近に発生し、各地に局地的・長時間の降雨をもたらせていた。そして、この日の午前中、熱海市伊豆山付近で土石流が発生したのだ。スマホで撮られた映像が報道され、その脅威の恐ろしさ、大きな被害が出ている様子が伝えられていた。
 このような非常時にコンテストなどをしてもよいのだろうかと考えた。被災した方々にはお見舞いの言葉しかないのだが、自分はどうすればよいかと考えた。無線をやっている者として、まず頭に浮かぶのは非常通信である。救助活動など有線での通信が困難な場合、無線による通信が設定される。それに対する備えをしなくてはならない。電波を出さず周波数を空ければよいのだろうか。当然、非常通信が発生した場合にはその通信に支障のある電波の発射は停止しなければならない。しかし、非常通信を受ける体制をとるためには多くの局がその非常通信を受信できる体制をとっていることが必要である。コンテストは競技として行われるのだが、多くの局がその周波数帯で受信体制を取っていて、微かな信号でも聞き逃さない状況になる。非常通信への備えという意味では、多くの局がその周波数帯で運用していることも意味があるのではと考えることにした。
 50MHz、144MHzはVHF、430MHz以上はUHFと言われ、短波帯のHFとは異なった伝播特性がある。光と似た直進性が強くなると言われている。つまり電離層反射による伝播ではなく見通しの直接伝播が主になるようだ。災害対応の活動では遠距離との通信よりもこの見通し範囲での通信が多くなると思われる。この周波数帯ではアンテナも小さくなり設営も容易である。
 私はQRPという数ワットの出力でアンテナも室内に張ったダイポールやホイップを使い、どの辺りまで交信できるか挑戦した。コンテストでは10は東京、11は神奈川、12は千葉というように運用地点を示す略号を交換する。それによると長野、栃木、群馬、茨城、山梨との交信ができていた。使用する設備によって出力が100W超はH,20W以上はM,5W以上はL,5W未満はPという略号も付加される。多くがMの局だったが、Pの局も9局あった。コンパクトな設備で運用している局も結構ある。
 今回は電信による通信だったが、非常通信の場合には効率からいって音声による情報伝達が主流になるだろう。それでも最悪の場合にはモールスが使われるかもしれない。商業電源が使えず電池による運用でも、室内に張るようなコンパクトなアンテナでもかなりの範囲との通信ができることが分かった。
 多くの局が運用して受信体制を敷いていたが非常通信が行われる状況は確認できなかったようだ。業務無線での交信は頻繁に行われていたことだろう。荒ぶる自然による大きな災害が続いている。無線で楽しませてもらっている自分としては災害への対処という面での無線を意識していきたいと思う。

 

パドル

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簡単工作パドル

 モールス符号を生成するために使うのが電鍵でありパドルである。モールス符号は1と0の組み合わせのデジタル信号であり、1にあたる部分で電波を出したり光を出したり音をだしたりし、0の部分ではそれらを出さないことで符号を構成している。つまり1か0かを切り替えることで符号となる。この切り替えに使うのが電鍵であり、パドルなのだが要するに切り替え器・開閉器・スイッチである。
 この切り替えに時間という要素が加わることで、符号が出来上がるので、タイミングよくこれを操作しなくてはならない。そのため電鍵やパドルはスイッチという単純な機能でありながら、手動での操作が確実にタイミングよくできるようにさまざまな工夫が込められている。たくさんの機種が市販されていて、どれも大変に高価である。また、単純な機能ゆえに自作をする人も多い。
 市販されているものは機能美ということから無線室に飾っておくという役割を持たせた装飾的なものもあるが、操作性、つまり打ち心地を追求したものがほとんどである。接点を閉じるときの反発力、その硬さ、強さ、動作の滑らかさ、接点の間隔、また、一つの動作から次の動作に移るときのストロークの長さ等々、感覚として感じるしかないような微妙な部分を追い求めている。
 流れるような、聞きほれるモールス符号を打つためには、こうした高機能な電鍵やパドルが好ましいのだろうが、通信としてのモールス符号を生成するには、極端に言えば親指と人差し指に導線を巻き付け、断続を繰り返すことでも通信することができる。

 写真はもう数十年間使ってきた市販のパドルと、3.5mmφのステレオプラグで作ったパドルである。自作のものはプラグに少し手を加えて短点と長点が出せるように工夫した。チップとリングの端子にラグ版をハンダ付けし、ホットメルトで固定してレバー操作のフィーリングを調整したものである。こんな単純なものでもDitとDahの2つのスイッチの役目を果たしている。接点の接触抵抗や動作の不安定さは避けられないのだが、自分の操作しやすいように調整をすることでとりあえず使えるレベルまで追い込むことができた。
 昔は送信真空管の陰極電流を直接、電鍵で断続することが行われていたようだが、今ではトランジスタキーイングがほとんどだ。パドルも同様である。デジタル回路のエレクトリックキーヤーは補正回路が組み込まれている。電鍵やパドルのスイッチに多少の接触抵抗変化があっても補ってくれる。このような簡単なスイッチでも符号乱れの原因となるチャタリングを起こす心配はないようだ。100円未満で作れる簡易パドルであり、人様に使ってもらうようなものではないが自分で使うには便利だと思う。

 モールス符号は、人間が直接生成し解読することができるデジタル信号であるという単純さゆえに、こうした他愛のない工作も楽しむことができる。数万円もするパドルや電鍵、また自作の簡易パドルなどさまざまな機器からモールス符号が生成され、お空を飛び交っている。モノづくりも含めてモールス通信を世界遺産として残しておきたいものである。
 

エレキーに負けている

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モールス符号を視覚化してみると

 「エレキーに負けている。特に濁点のところが目立つ」これはプロの方に送信を見ていただいた時にもらったアドバイスである。ほんの短時間での会話だったので、どういう意味なのか詳しくお聞きすることができなかった。
 通常の交信では何とか意志の伝達はできているし、デコーダーでも意図通りの符号として解読されている。しかし、プロに耳には何か違ったものが聞こえていたようである。
 今回は額表を使った送信で、欧文普通語のような語としてのまとまりや、文としてのまとまりを考慮することなく、額表に当てはまるように淡々と送信したつもりだった。しかし、濁点を送るときにエレキーのスピードに付いていけていなかったのだろうか。
 パドルを操作しながら耳で聞いていたのでは、モールス符号を送ることに集中しているのでその遅れがわかりずらい。そこで、JA3CLM 高木さんの"CWLesson"というソフトを使わせていただき、打鍵した符号を可視化してみた。
 短点と長点の集まりである文字はそれなりにまとまっている。しかし、文字と文字の間は3短点分のスペースでなければならないのだが、濁点のところが4短点分になっているのがわかる。他の文字間隔にも乱れが見られ、安定した符号になっていない。電報の送受は額表の一枠一枠に文字を埋めていく作業なので、この文字間隔の安定が大事なのだろう。
 エレキーを使うと短点と長点の比率はデジタルできちんと定めることができ、短点と長点との間隔も短点1つ分空ける機能もある。そのため文字を表すモールス符号を生成することは比較的容易である。しかし、文字を安定して送信する場合には操作者が意図的に文字と文字の間のスペースを調整しなくてはならない。
 この部分がプロの方から見ると不安定なため、「エレキーに負けている」となっていたようである。一文字一文字を送出することに神経が行ってしまい、文字と文字の間隔についてはあまり意識していなかったのだ。モールス符号を可視化してみるとそのことが明らかになる。プロの方の、修練されてきた感覚のすごさに改めて敬意を感じた出来事であった。

 モールス符号は短点と長点、そしてスペースの組み合わせで出来ている。単純なデジタル信号なのだが、その送信も受信も人の感覚を使って解読する。我々が使っている母語の微妙な変化でニュアンスの違いを伝えているように、モールス符号での通信においては人の感覚が文字だけでなくさまざまな情報を読み取っているようだ。
 鍛錬を重ねることで身につけていくモールス符号の奥深さに改めて触れた思いである。エレキーに負けないで自分なりの打鍵ができるように修練を積んでいく、これも楽しみである。