XRQ技研業務日誌

ものづくりを楽しんでいます。日々の暮らしの中に面白そうなものを探しながら

エレキーに負けている

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モールス符号を視覚化してみると

 「エレキーに負けている。特に濁点のところが目立つ」これはプロの方に送信を見ていただいた時にもらったアドバイスである。ほんの短時間での会話だったので、どういう意味なのか詳しくお聞きすることができなかった。
 通常の交信では何とか意志の伝達はできているし、デコーダーでも意図通りの符号として解読されている。しかし、プロに耳には何か違ったものが聞こえていたようである。
 今回は額表を使った送信で、欧文普通語のような語としてのまとまりや、文としてのまとまりを考慮することなく、額表に当てはまるように淡々と送信したつもりだった。しかし、濁点を送るときにエレキーのスピードに付いていけていなかったのだろうか。
 パドルを操作しながら耳で聞いていたのでは、モールス符号を送ることに集中しているのでその遅れがわかりずらい。そこで、JA3CLM 高木さんの"CWLesson"というソフトを使わせていただき、打鍵した符号を可視化してみた。
 短点と長点の集まりである文字はそれなりにまとまっている。しかし、文字と文字の間は3短点分のスペースでなければならないのだが、濁点のところが4短点分になっているのがわかる。他の文字間隔にも乱れが見られ、安定した符号になっていない。電報の送受は額表の一枠一枠に文字を埋めていく作業なので、この文字間隔の安定が大事なのだろう。
 エレキーを使うと短点と長点の比率はデジタルできちんと定めることができ、短点と長点との間隔も短点1つ分空ける機能もある。そのため文字を表すモールス符号を生成することは比較的容易である。しかし、文字を安定して送信する場合には操作者が意図的に文字と文字の間のスペースを調整しなくてはならない。
 この部分がプロの方から見ると不安定なため、「エレキーに負けている」となっていたようである。一文字一文字を送出することに神経が行ってしまい、文字と文字の間隔についてはあまり意識していなかったのだ。モールス符号を可視化してみるとそのことが明らかになる。プロの方の、修練されてきた感覚のすごさに改めて敬意を感じた出来事であった。

 モールス符号は短点と長点、そしてスペースの組み合わせで出来ている。単純なデジタル信号なのだが、その送信も受信も人の感覚を使って解読する。我々が使っている母語の微妙な変化でニュアンスの違いを伝えているように、モールス符号での通信においては人の感覚が文字だけでなくさまざまな情報を読み取っているようだ。
 鍛錬を重ねることで身につけていくモールス符号の奥深さに改めて触れた思いである。エレキーに負けないで自分なりの打鍵ができるように修練を積んでいく、これも楽しみである。