XRQ技研業務日誌

ものづくりを楽しんでいます。日々の暮らしの中に面白そうなものを探しながら

日本史サイエンス =蒙古襲来、秀吉の大返し、戦艦大和の謎に迫る=

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技術者から見た歴史

播田安弘 著   BLUE BACKS

 「長年、船の基本計画を生業とし、趣味も艦艇と古船という船オタクが、船への興味から蒙古襲来について調べた成果を海洋開発関係者の集まりで発表した」p236ところ大きな反響があり、この本の出版に結び付いたという。著者は歴史の研究者ではないということだが、歴史を古文書などの史料から読み解くという方法ではなく、実験歴史学のように、その歴史的事実をさまざまな状況証拠から読み解こうとする話である。
 サブタイトルにあるように、3つの歴史的出来事について考察している。なぜ元寇で攻めてきた蒙古軍が一夜にして船に引き上げてしまったのか。「中国大返し」として有名な、備中高松城の毛利攻めをしていた秀吉が本能寺の変を知り明智光秀を討つために京までの約220kmの行程を8日間で移動することは可能だったのか、戦艦大和は本当に無用の長物だったのかということについてのさまざまな視点からの考察である。
 筆者は事実はどうであったかは不明だとしながらも。その出来事を取り巻くさまざまな状況を整理し、どのような条件が必要だったのかと思考実験を繰り広げる。肉体的な能力や地形的条件、物量など条件が定まれば時代を超えて結果は推測できる。歴史の教科書で一行で書かれているようなことでも、そこに生きた人物がどのように考え対処していたのかをその置かれた状況の中で考えていくという新たな視点からの考察である。
 著者は造船という仕事でモノづくりに携わって来たと紹介されている。モノづくりは目標に向かって試行錯誤の連続である。壁にぶつかったとき、その壁を乗り越えるか、その壁を回避するか、さまざまな方策を練りながら先に進む。先を見越していろいろと手筈を打っていくものの想定通りに進めるわけもない。いくつもの分岐点で判断を求められ、一筋縄ではいかない。ものごとが先に進むのは数限りない条件が整った時である。
 閑話休題
 ワクチン接種がパンデミック収束の切り札として進められている。国レベルでも、都道府県レベルでも、市区町村レベルでもさまざまな方策が出され、毎日のニュースでは常にそのことが話題になっている。ワクチンを広く接種するという一つの目標に対しても一筋縄では進まない状況である。遠い将来、今日に状況を歴史には「Covid-19が蔓延し多くの犠牲が出たが、ワクチンによって乗り越えた」と書かれるかもしれない。今、ニュースとして流れている多くの取り組みは捨象されてしまうだろう。
 ものづくりからの経験が活かされ、歴史を多面的な視点から考察した著作である。何が真実であるかを主張するものではないが、だからこそ歴史を読み解く面白さを示してくれた本である。