XRQ技研業務日誌

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桂盛仁 江戸金工の世界

 

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 超絶技法などと言われている明治、江戸期の精細な加工技術は刀剣の装飾を主な目的として、職人のたゆまぬ努力と創意工夫の中で磨かれ発展してきたもののようである。帯刀が禁止され刀剣が作られなくなると、その技法は帯留めなどの装身具に転用され、技術が受け継がれてきた。桂盛仁はその技術を受け継ぎ、人間国宝に指定されている金工作家である。
その作品を展示する「人間国宝・桂盛仁 金工の世界 -江戸彫金の技―」が練馬区立美術館で開催されている。作家本人によるギャラリートークがあるというので参加した。

 「江戸時代初期から続く彫金の一派.柳川派の流れを汲み.明治―大正―昭和期にかけて、煙草入れなど装身具の彫金で大人気を博した二代豊川光長、桂光春を輩出した流派で、伯父である光春を継いだのが盛仁の父、桂盛行【かつらもりゆき/1914~96】となる。父.盛行のもとで修業した桂盛仁は、打ち出しや彫金、象嵌.色絵等の技法を駆使し、日本伝統工芸展などで高い評価を得てきた。宮内庁買い上げ.文化庁長官賞を受章するなど研鑽を積み、2008年に重要無形文化財「彫金」保持者「人間国宝」に認定されている。昨今、明治期の卓越した工芸作品を、超絶技巧と称し、ロストテクノロジーとしての評価がなされてきているが.そうした工芸の技倆が脈々と受け継がれてきていることは柳川派、そして桂盛仁の金工を見ると明らかである。(練馬区立美術館HPから)                                      

 一枚の金属板から、それを伸ばしたり、縮めたり、掘ったり、埋め込んだりなど様々な技法を駆使して作品を形作っていく。カエルの帯留めを作っていく過程を追ったビデオを見た。作品のイメージをスケッチし、それを粘土を使って立体にしていく。全体の様子を見て修正し、帯留めとしての全体像を決める。作品の構想がまとまると、いよいよ制作に入る。地金となる四分一という金属の板に輪郭を写し取り、焼きなましをしながら裏側から膨らみを叩き出していく。硬い金属のため何回も焼きなましを繰り返す。概ね膨らみが得られたら、表側から形を整えていく。伸ばすところ、寄せていくところタガネの種類を変えながら繰り返し繰り返し形を整え、最初の作品イメージに近づけていく。金槌とタガネをつかった作業の繰り返しである。その作業に使われるノミやタガネの種類は途方もないものである。作品のカーブや細かさなどに応じて使い分けられる。作品の形が出来上がると周りにノミが入れられ、切り取られる。
 ここまでの作業に数カ月かかることもあるという。しかし、作品はまだ土台の部分ができた段階であり、これから装飾が始まる。線彫りや象嵌などの技巧が使われ、作品が仕上げられていく。
 金工では、金属そのものの特性が生かされるように使われ、彩色したりすることはないのだという。色を出したければその色の金属を埋め込む、または金属の化学反応を利用して変色させていく。彩色するのと違い、狙った色を出すのは至難の業だという。
 仕上げは表面を磨き金属特有の光沢を持たせて、完成する。
 分業ではなく、一人の作家がすべての作業を行い、作品を仕上げていくので、〇〇の作品というだけで価値があるものとして見られているのだそうだ。
 桂盛仁さんのギャラリートークは展示室の作品に囲まれた中で行われた。何重にも人垣に囲まれ、人と人の隙間から講演者の顔がチラチラと見えるような状況だったが、その話に引き込まれ、金工の世界を垣間見せてもらったひと時であった。「人にホォーと言ってもらえる作品」を目指しているという作者の言葉が印象に残っている。