XRQ技研業務日誌

ものづくりを楽しんでいます。日々の暮らしの中に面白そうなものを探しながら

油絵と版画

shig552007-03-21

「暑さ寒さも彼岸まで」とはよく言ったもので、陽射しは強くなり、昨日は靖国神社の基準木の桜が6輪咲いた。日本海上の筋雲も薄くなり、北からの風も弱まってきた。春と冬が逆転したような天候もやっと元に戻った感じだ。

近くの美術館でおもしろい企画展をしていたので足を運んだ。油絵と版画を比較してみようと言う試みである。
それぞれの作品は見れば歴然と油絵であり、版画であるとわかるのだが、さまざまな作品を並べてみると境界がわからなくなる。特に平面で構成された作品では筆のタッチを極力出さないように描かれたものもあり、一見しただけでは判断が出来ないものもあった。
会場ではまず、典型的な油絵が展示されていた。筆やへらで絵の具を幾重にも塗り重ね、立体ではないかと思わせるほどに凹凸のある絵である。学芸員の話がおもしろく、このような作品では制作されてから絵の具が乾くまでにはとても長い時間が必要で、絵の具の表面は乾いていても中が乾いていないことがあり、輸送中にそれが動いてしまうので、展示する際に作品を逆さにしたりして絵の具を元の位置に戻す作業があるのだと言う。また、カンバスを床に置きそのの上に絵の具を載せる。作者は家の梁にぶる下がって、脚でその絵の具を動かすことで躍動感のある作品を作るのだそうだ。作者の足がつるっと滑ったところが、すばらしい動きを出しているのかも知れない。
一方、版画の方は作者が版画を作っている段階では作品は完成されず、刷るという作業を経て始めて作品となる。作者は間接的に作品を作ることになり、ある時点でその作品を自分の手元から手放さなくては作品にならない。油絵が何度も何度も手を入れ、完成という時点が曖昧であるのに対して、版画はどの時点で完成と見なすかがはっきりしている。もっとも、版画であっても同じ版で同じものを何枚も刷る場合もあるが、版の一部を使ったり、一部を省略したり、別のものに入れ替えたり、刷り方を変えたり、色を違えたりさまざまな変化を持たせる場合もある。
この展覧会では一つの版がさまざまに変化したくさんの作品のなっていくかを示したコーナーもありおもしろかった。
版画には凹版あり凸版あり、エッチングありシルクスクリーンありさまざまな技法があるが、作者の製作意図にぴったりした技法が使われているとのことで、一人の作者の油絵や版画が並べられているコーナーもまた興味深いものがあった。
版画というと同じものがたくさん出来るという意味で油絵よりも一段下に見られがちであるが、表現方法としてはそれ独自のものを持っており、おもしろいと感じた。
下地にエンボス加工をして、それに色を転写する作品もあったが一見しただけでは平面的に見えても横や下から見るとかすかな凹凸があり、その陰影を使うことで色の深まりが表現されていることが新たな発見であった。。