XRQ技研業務日誌

ものづくりを楽しんでいます。日々の暮らしの中に面白そうなものを探しながら

計算機屋かく戦えり

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計算機屋さんたちの奮闘のドキュメント

新装版 『計算機屋かく戦えり』 遠藤 諭 株式会社アスキー

 古い本である。初版が1996.11/10発行、私の読んだ新装版が2005.11.15の発行である。著者の遠藤諭さんは月刊アスキーの編集長を務めた方で、ここに収録された記事は月刊アスキーでも連載されたものだという。
 日本のコンピュータ開発に携わった方々へのインタビューであり、それはまるではコンピュータ博物館のような内容である。30数名の方の話が掲載されていてコンピュータ開発に関わる多方面からのアプローチである。本書が刊行されてから情報処理学会というところでコンピュータに関する資料をまとめたコンピュータ博物館がネット上に作られたという。時代を変革する存在となったコンピュータの誕生についてこのように記録としてまとめておくことは大切なことだと思う。なお、ネット上の博物館では多くの人の力で集められたさまざまな資料が閲覧できるのは有り難い。

 手元にカシオメモリー8Rという電卓がある。蛍光表示管を使った8桁の四則演算の機能だがまだ現役である。この小さな電卓もコンピュータ開発の系譜の中から生まれてきた。日本には和算という文化があった。数学的な問題を解くことを目指して寄り合い楽しんだという。問題が解けるとその解を扁額として寺社に納める風習もあった。計算は生活に必要なことで算木や2進・5進法であるソロバンが計算に使われてきた。社会生活においても大量の計算が必要な場面が増え、手計算では追いつかない状況から機械式の計算が行われるようになっていった。10進数の歯車を用いた機械式計算機、ヘンミ計算尺、数表を用いた計算法などさまざまな方法が用いられた。さらに戦時中の弾道計算、暗号機、論理回路の基となる数学理論などから真空管式の計算機が誕生したという。世界初のコンピュータとしてENIACが有名なのだが、国内でも独自の開発が進められていたようだ。その当事者の方々のインタビュー集が本書である。
 さて、古い本とはいっても、これらの出来事は私の過ごしてきた日々と重なるのだ。コンピュータの誕生から今のように世界の有様を変えてしまった存在になるまでリアルタイムで体験してきた。コンピュータの開発の中から電卓が誕生し、電卓から4004のCPUが生まれ、Z80の誕生で私が最初に触れたマイコンPC8001(Z80A互換)が出ている。
 ASIMOが二足歩行を始め、AIBOがペットとなり、行政手続きがオンライン化している。AIがさまざまな場面で動き出し、IoTが家電を結びつけ、テレビではドローンからの綺麗な映像が流れている。計算機屋と称された人々の技術が大型コンピュータだけでなく広く生活の中に広がった。インターネットと繋がることでコンピュータは情報機器として大きな変身を遂げた。計算をするだけの機器ではなく情報を処理することがその機能の中心になったのだ。

 先日、量子コンピュータの素子の開発が進んだとの報道があった。日本の技術開発は特定の個人が事業を興して進めるという形より企業や国が連携して進められることが多い。個人にスポットが当てられることは少ない。しかし、本書のインタビューを読むとその一人一人の情熱と努力が如何に新しい世界を切り開いてきたかがわかる。これまでの人々の足跡を知ることで刺激を受ける一冊である。