XRQ技研業務日誌

ものづくりを楽しんでいます。日々の暮らしの中に面白そうなものを探しながら

前へ! 麻生幾

shig552012-05-03

 太平洋を越えて、バレーボールがたどり着いたという。また、コンテナに入っていたハーレーダビットソンが渚に打ち上げられているのが見つかった。1年以上もかかり大津波に流されたものがアメリカにたどり着いた。その持ち主が見つかったことも報道された。大自然の大きな営みを思い知らされる。
 それにしても、今日も大雨で、いくつもの河川が危険水位を超えたと警報が出された。荒ぶる自然、これまでもこれほどに荒々しかったのだろうか。鎮まってくれることを願わずにいられない。

前へ! 東日本大震災と戦った無名戦士たちの記録
      麻生 幾  2011.8 新潮社
 さまざまなドキュメンタリーが出されている。これは震災から5ヶ月経ったころに雑誌に掲載されたものを加筆編集したものである。「宣戦布告」「ZERO」「エスピオナージ」などの作品で鋭い視線を社会に向けている著者である。どのような視点でこの災害を見ているのか興味を持ち、読み始めた。
 第2章では「啓開」という言葉に出会った。救援救護ということに目が行きがちであったが、それらの活動を支えるのは交通網である。救助隊や支援を被災地に届けるためにはそこまでの交通ルートをまず確保しなければならない。その道路を維持管理しているのが東北地方整備局という国土交通省の機関なのだそうだ。日常的には国道事務所や維持事務所が道路の管理をしているが、今回の震災では広範囲に交通網が寸断された。救助のためにいち早く道路を通れるようにしなければならない。それを「啓開」というのだとのこと。がれきを排除し、土砂崩れや壊れた橋梁を処置しながら車が通れる状態にする。あまり報道されることのなかった活動だが、民間の業者と国や自治体の機関が一体となったこれらの人々の働きがあったからこそ、その後の活動が可能であったことを知った。
 電力というライフラインを供給する企業とエネルギー政策を行う政府、それぞれが役割を分担しているはずだったが、空隙があった。その空隙が今回の原子力発電所の事故を拡大させたのだと思う。原子力を確実に制御できなかった企業、原子力発電を推進してきた責任上がむしゃらになって事故対応にあたった官邸。その間で統制のとれた対応が置き去りにされた。「政治主導の行政」という名の下で行政を理解しないままの政治家が主導するこの国の恐ろしさを見た。
 自衛隊、警察、消防、DMAT、等々たくさんの組織体がこの災害に立ち向かっている。その無名の戦士たちの一人一人が英知を絞り心を込めて活動しているのだと思う。兵士たちは決して命令されるだけで動いているのではないのだ。組織を統制することは必要ではある。しかし、指揮をする者は組織を活かすべく運用すべきであり、自らの手足のごとく組織を扱うべきではない。このドキュメントの中で一番に感じたことである。
 「誰かがやってくれる」ではなく、「自分がやる」という気概の中で物事は行われている。しかし独善になることを防ぐために謙虚さと人を信じる心の大きさを持っていたいものである。