XRQ技研業務日誌

ものづくりを楽しんでいます。日々の暮らしの中に面白そうなものを探しながら

航空小説

朝焼けの飛行機雲

 大寒を過ぎ東京地方にも雪が降った。ほんの数センチの積雪であったが、明くる朝は路面の凍結で大混乱になった。車はそろりそろりとした運転で、スピードは出さないものの信号の変わり目でもブレーキをかけられず信号無視。横断歩道では白線部分が凍っていて足を取られる。路肩に寄せられた氷雪のため道幅が狭くなり、車に近づいて歩かなくてはならない。交通渋滞でバスダイヤは乱れ、物流にも滞りが出た。雪国では考えられないような脆弱さである。

 内田幹樹さんの航空小説を読んだ。下地島で操縦教官をしているときに書いた小説が優秀作品賞をとり、その後も航空関連の作品を発表している。作品は業界用語がふんだんに盛り込まれ臨場感たっぷりである。

パイロット・イン・コマンド」 2005.10 新装版 原書房
 ロンドンから成田に向かう便で第二エンジンの爆発事故。機体が損傷して急降下。乗客も負傷し機長も倒れる。キャビンアテンダントにも負傷者が出る。副操縦士がクルーと協力しながら機体を立て直し、着陸を試みる。そのリアリティーに引き込まれ、一気に読んだのだが、最後の部分でCAが声を限りに乗客たちに安全姿勢を呼びかける場面では御巣鷹山での遭難が想起され胸に迫るものがあった。

「機体消失」 2005.10 新装版 原書房
 台湾から100億円もの密輸品を積んだセスナ機が日本に向かい機体が消失する。その事件に「パイロット・イン・コマンド」の副操縦士が巻き込まれるストーリーである。サスペンスとしても楽しめたが、私は舞台になった下地島に惹かれることになった。伊良部島下地島が川のような狭い海峡で接していて、下地島に訓練のための空港があることを初めて知った。そしてそこに生活する操縦教官の優雅な生活にあこがれてしまう。

「査察機長」 2005.7 新潮社
 成田からニューヨークへのラインで機長としての査察(チェック)を受けるストーリー。悪天候の中を着陸することになるのだが、機長としてさまざまな情報を元にどう判断するかが書かれ、コクピットの中の様子がうかがえる作品。「査察は自分を振り返る機会であり、訓練の機会である」という言葉や「平和や安全は第三者が言う抽象的なことではなく、現場は常に臨戦態勢で平和や安全を守っていかなければならない」という言葉が印象的であった。

「拒絶空港」 2006.7 原書房
 パリ発成田行きのボーイング機。離陸後にタイヤがバーストしたことがわかる。さらに放射性物質が機内に持ち込まれたことが判明する。着陸に失敗すれば炎上し放射性物質が拡散する。着陸したい飛行機と降ろしたくない地上。乗客と乗員の生命を預かる機長と国民の生命財産を守ろうとする国、政府。9.11の悲劇が想起され、国を守るためには飛行機が撃墜させるかも知れないとあえて市街地の上を飛び、自衛隊機の攻撃を受けないように待避する。本来、地上の支援を受けながら飛ぶのだが、その支援が受けられないか、もしくは見捨てられるかもしれない状況の中でギリギリまで諦めず職務を果たそうとする機長やクルー、乗客の姿が描かれている。これが書かれたのは2007年だが3.11の福島第二原発放射能汚染事故を彷彿させるような状況が随所に出てくる。航空機という隔絶した世界の中での機長の位置づけが見えてくる作品である。

 コクピットの様子を知ることで航空機への興味がわいてくる。次に搭乗したときどんな発見があるか楽しみである。