今年のサクラは靖国神社の標準木の開花は早かったのだが、その後の天候不順で、寒い日が続き長期間に亘って花を楽しむことができた。青空の下のサクラは輝くようにきれいだが、雨の日や曇りの日のサクラも、また風情がある。川沿いに植えられている桜並木の下を何度散歩したことだろう。その日毎に表情を変え、楽しませてくれた。舗道にできた水たまりに浮かぶ花びら。雨の後、水量の増えた川の流れに幾筋もの帯をつくっている花いかだ。夕暮れの斜めからの光を受けて、赤く輝く枝いっぱいの花。またある時には、青空の白く輝く月を桜色の花たちが囲むような場面も見せてくれた。
サクラにはいろいろな種類があるようだが、ソメイヨシノが人々に好まれてこれだけ広まったのもわかる気がする。葉が出てくるよりも前に、枝という枝にいっぱいの花を付ける。それも数日のうちに一斉に開花する。そして、散り際がいさぎよい。きれいな色のままの一枚一枚の花びらが風に舞って広がっていく。樹形も大きく枝を広げている。川沿いに植えられたものは、川面に届くように枝を垂らし、川の両側から流れを包み込んでいるものもある。流れの中に緑があり、水鳥が遊んでいるならば一幅の絵のような景色である。 種類によって樹形や花の色、花の形、咲く時期がずれるのもいい。シダレザクラはたおやかな枝を垂らし、小さめで色の濃い花を楽しませてくれる。ヤマザクラは葉と花が同じ時期に生長するが、大きめの白い色の花がたくましさを感じさせる。ヤエザクラは少し遅れて開花するが、その花のボリューム感がすごい。濃いピンク色と花の塊のようになって咲く姿は華やかで豪華である。
それにしても、この一時期、街の景色が一変するのがすばらしい。普段は目立たないサクラなのだが、こんなにもたくさんのサクラがあったのかと思うほど、あちらこちらでサクラの木を目にする。サクラの木が丸ごと花に包まれたようになるほんの数日。幸いに今年はその日数が伸びてくれたのだが、限られた期間だけの楽しみである。季節の移ろいをこれほど印象深くしてくれる最たるものだと思う。
福寿草、水仙、梅、桃、・・・・とどれも季節を知らせ楽しませてくれるのだが、サクラの季節も終わりである。今年は卒業式にも入学式にも文字通り花を添えてくれたサクラ。また次の年を楽しみにしたい。
ところで、驚いたニュースがあった。この時期、河口付近では流れてくる花びらの回収が大変なのだという。川面を流れているうちはきれいなのだが、河口付近になると朽ちてきて沈み、川の底に堆積してしまうからだ。毎日回収船を出し、網を使って掬い取っているという。自然と人間の営み、風雅を楽しんでいるだけにはいかないようである。