XRQ技研業務日誌

ものづくりを楽しんでいます。日々の暮らしの中に面白そうなものを探しながら

小説 「下町ロケット」

shig552011-08-12

 あの日から26年が経った。異常を伝える通信を発し、レーダーから機影が消える18:56までの乗員・乗客の気持ちを考えるといたたまれなくなる。520名(胎児を含めると521名)の方々のご冥福を祈る。合掌。
 命を取り留めた方の証言から、墜落した時には他にも生存していた方がいたという。しかし、当時の態勢では救助の手が届かなかった。思いはあってもさまざまな条件がうまくかみ合わなくては結果に結びつかない。私たちは苦い経験の中からそれぞれの関わりを改善してきた。今回の震災でも苦い経験を味わった。見えてきたものを活かしていくのが私たちの役割だと思う。

  小説 「下町ロケット」第145回直木賞   池井戸 潤 2010.11 小学館

 もの作りは楽しい。創造する楽しさ、課題を解決していく醍醐味、目指したものができあがる喜び。最初に考えた仕様を実現させるのはなかなか一筋縄では行かないものである。いくつのも壁にぶつかり、方向修正を強いられることもある。アイディアを絞り出しながら一つ一つ検証していく。アイディアに行き詰まり、文献や周辺事例の大海に溺れそうになることもある。しかし、目指すものに向かって這いずりながらも進んでいけるのはもの作りがおもしろいからである。
 「下町ロケット」という題名からてっきり技術的な話であると思いこんで読み始めた。この本は佃製作所という小さな会社による製品開発の物語ではあるのだが、家族や従業員との関わり、競業する他社や大企業などとの関係、企業内人事の力関係などいろいろな要素を取り込みながら、技術を核とした大きなスケールの話になっている。
 アマチュアなら自分の技術を楽しんでいればよいのだが、企業活動となると納期や採算という経済性の問題、特許権を基とした法廷戦略の問題、発注者と下請けとの問題などいろいろなことが絡んでくる。特に中小企業ではそれらは経営者の双肩にすべてが架かってくる。物語では主人公の佃社長がさまざまな場面に遭遇しながらも、それを乗り越え、自ら考案し製造したキーデバイスをロケットに組み込んで宇宙に羽ばたかせる話である。
 夢を追い続けること。佃社長はかつて研究者としてロケット開発に携わっていたが、打ち上げ失敗の責任を取って研究機関を去る。そして父親の会社を嗣くのだが、ロケット技術への夢を忘れることができない。やり甲斐、拘り、・・が佃社長を動かしているのだと思う。誇れる製品を作る「佃プライド」「佃品質」が自己表現であり、自らの活動の原動力になっている。その思いは社長だけでなく社員みんなのものになっていき、モノトーンロケット打ち上げへと進んでいく。
 自分の関心をどこに置くかで見えてくるものが異なってくる。夢という視点を持ち続けていることで羅針盤を持つことができるようだ。日常のさまざまな壁に対して行くべき方向を見いだす手がかりとなる。もの作りは楽しい。それは目指すところに向かって自分の力を発揮できるからである。
 震災の復興。課題が見えてきた今だからこそ、英知を結集して改善への足を進めて行かなくてはならない。