XRQ技研業務日誌

ものづくりを楽しんでいます。日々の暮らしの中に面白そうなものを探しながら

花筏

はないかだ

 山桜、八重桜が咲き始め、花蘇芳(ハナズオウ)や海棠(カイドウ)も彩りを添えている。ソメイヨシノが盛りを過ぎ、花吹雪を楽しませてもらったこの時期、一夜で景色が変わる。風に舞った花びらが辺り一面を覆い尽くし、ピンク色に変えてしまうのだ。数え切れないほどの小さな花びらが淡いピンクを輝かせている。それもすぐに色あせ、茶色に変色してしまうのでほんのわずかな時間である。
 花びらが水面に落ちるとピンク色の流れが生まれる。花筏ハナイカダ)と言うのだそうだ。流れに乗ってさまざまに形を変え筋を作っていく。変幻自在の造形を見ているだけで時を忘れてしまう。

 葉が一枚もない枝だけの姿から、少しずつ蕾がふくらみ始め、そこにピンクの色が見え始める。蕾の重さを量ったり、毎日の気温を合計して400℃になる日数を計算したり、基準木という樹を観察したり、人々は桜の開花を待ち望む。そしてポツリポツリと花が咲き始めるとワクワクとした雰囲気が街中にあふれ出す。そしてすぐに満開宣言。枝だけだった木が花に覆われて想像もできないほどの変身をする。見事な花の木になる。公園や学校、神社仏閣や街路にも桜は植えられているので桜の連なりになる。この時期だけの華やかさに街中が彩られる。日本で卒業式、入学式など人生の節目になるイベントがこの時期に行われるのも納得できる。しかし、時は留まることをしない。桜の華やかな時間は短い。この散り際の潔さも桜の魅力だという。

 花筏を見送り、桜の季節を終えようとしているが、このひとときの興奮をもたらせてくれるこの木を愛でる伝統を誇らしく思う。何もない枝から満開の花、そして花吹雪から花びらの絨毯、花筏まで短時間のうちに生命の輝きを見せてくれる。花の後には新芽が柔らかな緑を楽しませてくれる。やがて強い日差しを遮ってくれ、色づいた葉のグラデーションを見せてくれる。

 ソメイヨシノの寿命は結構短いそうである。70年ほどになると樹勢が衰え空洞ができたり枝が折れやすくなったりするという。戦後の復興期に植えられた木々がそろそろその老年期に入ってきている。世代交代をさせてやる時期になってきている。老木の脇に若木を植えていく必要がある。命の繋がりを考えてこその伝統である。