XRQ技研業務日誌

ものづくりを楽しんでいます。日々の暮らしの中に面白そうなものを探しながら

手間を取る

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検索は容易になったのだが

 テレビで報道された話題である。記憶に残るのはどちらかという実験についてだ。被験者にまだ知らない語彙を調べてもらう。辞書を使った場合とスマホを使った場合との比較である。調べてからしばらく経って、その語の意味を書き出してもらう。すると、辞書を使って調べた語についての方がスマホを使って調べた語より意味を書き出せたという。つまり、手間をかけて調べた方が記憶に残りやすいという結果になったのだそうだ。
 最近、調べものをする時、ネットを活用することが多い。検索語を入れればさまざまな情報が出てきて、それらを選択することで求めていたものに容易に近づくことができる。さまざまな情報が溢れているので、それが正しいかの判断はしなければならないが、思いもよらない視点や分野からの記載に出会うこともある。尤もらしく描かれていても関心を惹く為のフェイクもある。慎重な見極めが必要だが、一つのことを調べるのに以前のように図書館に籠もったり何日も時間をかけたりすることはなくなった。
 知識を得ると言うことは、自分のそれまでの経験や知識と噛み合わせて、納得がいくことであろう。単に情報に接すると言うだけでなく、十分咀嚼する時間が必要なのだと思う。以前のようなさまざまな書物を漁り、資料を探して追い求めるという作業の中で咀嚼していくのである。情報へのアクセスは格段に容易になってきたのだが、その咀嚼する体験を十分にとらないと通り過ぎていってしまう情報になるようだ。
 コピペ(copy and paste)が普通のこのごろだが、自分の手で書き写すことの大事さも心しておきたい。自分にとって大事なことを自分なりの表現でまとめる。作業には手間がかかるがその過程で情報が咀嚼され自分の血肉となっていく。デジタルを活用するのだが人間はアナログな存在である。情報を得るという結果だけでなく、その過程が大事なのではないだろうか。
 
ところで、アマチュア無線は所詮自己満足であると言われる。私的探求を業務としたものであり、利潤を追求したり再現性を求めるものではない。もっぱら自己の興味関心に基づいて技術的、技能的課題に取り組むものである。結果を求めながらもその過程を楽しむ。さまざまな試行錯誤を繰り返しながら電波の伝わりという自然の営みを楽しんでいる。アマチュア無線で使われる機器も現在では多くがデジタル化され自動化されている。それでも自分ではんだごてを握り、一つ一つの部品を組み立て、一筋縄ではいかない装置を手懐けながらハムライフを楽しんでいる人が多い。手間をかけることが楽しいのであり、その過程から多くのことを学び自己満足している。言葉を変えれば自己実現への道を歩んでいる。
高性能の無線機器を入手し、交信ができればいいと言うのではなく、あれやこれやと自分なりの工夫で交信をすることを楽しむのである。モールス通信は習得するにも運用するにも手間がかかる。だからこそ、この病に取り付かれた高齢者ハムが数多く活躍しているのだと思う。
自動化、AI、IoT・・・多くのことが便利になったこの時代、不便を知らない世代にとっては工夫し不便を乗り越えることを楽しむのは難しいことかもしれない。それでも自ら手間をとることは必要なのだと思う。