前回、ふたご座の流星群の観察が楽しめたホテルを再び訪れた。大きな窓に広がる眺望に惹かれたのだ。
今回は最上階で、建物の角に位置した部屋を用意してもらった。前面は外浦湾に臨み、サイドの窓からは伊豆の山並が望める。夕日が沈む頃になると雲が輝き山並みを染めていく景色が楽しめた。伊豆半島は周りを海に囲まれているので暖かいのだろう。植生が常緑広葉樹が多い。緑の絨毯が広がっていて、その向こうに夕日が沈んでいく。木々の色がだんだんに分からなくなり、シルエットになっていく。雲があかね色から金色に輝き出す。静かな一日の終わりである。
この日は晴天に恵まれていたので、海の眺望もよかった。大島、利島、鵜利根島、新島、式根島、神津島がはっきりと見えていた。大島や利島は町並みまで見ることができる。前回の反省として今回は双眼鏡を用意したのだ。島々との間を様々な船が航行している。東京湾に向かっているのだろう。下田港を出た水中翼船が波の間を飛ぶように進んでいる。大型の貨物船が船首で真っ白い波を切り裂きながら進んでいる。
日が沈んでくると大島や利島の灯台が輝き出す。行き交う船にも明かりが灯る。たくさんの光をまとっているのは島々を繋ぐ客船なのであろう。街の灯りも輝きだし、「あれが元町かな、あの高みが宮塚山だな」と地図で地名を探して楽しむ。窪みのある島影の新島、すぐ隣の式根島、少し離れて山並みに見える神津島。この日は見えなかったが、その向こう側には三宅島や御蔵島が見えるのだそうだ。これほど近くに島影が見えるのだから、行政的には東京都だが伊豆の国という方がしっくりする。
一寝入りしてからまた窓を覗く。部屋の明かりを消していると満天の星が輝いてくる。普段見ている星空よりもたくさんの星々である。星座を確かめるがなかなか見分けがつかない。流れ星だろうか小さな光が流れていく。飛行機の明滅する光もきれいだ。星座早見表で星々を同定しようとしたのだが、諦めてただ星空を楽しむ。しばらく眺めていたのだが、ガラス窓の傍は冷えてくるので、早々にベッドに潜り込む。
空が白み始める頃、外浦湾の岩場に何艘もの小さな明かりを灯した小舟が浮いていた。エビ漁をしているのだろう。昼間見た時に湾内のあちらこちらに浮きの目印があった。この漁と関係しているのだろうか。空が明るくなってくると船は次々と港に入っていく。島々のシルエットが徐々に濃くなり灰色と空色、そしてあかね色の帯が水平線に広がってくる。雲が赤く輝きだした。そして一筋の光が差してきた。日の出は瞬く間であった。どんどん光が強くなり正視できないほどになる。空の灰色が薄れ、白から青へと変わっていく。思わず手を合わせたくなるような荘厳な景色だ。
オーシャンビューを十分に楽しんだあと、ゆっくりと温泉に浸かり、趣向を凝らした朝食をいただいて宿をあとにした。
贅沢なひとときを過ごさせてもらった宿に感謝である。