XRQ技研業務日誌

ものづくりを楽しんでいます。日々の暮らしの中に面白そうなものを探しながら

理研の一般公開

一日だけではもったいない

 和光市の川越街道沿いに広大な理化学研究所がある。理研大正6年(1917)財団法人として創設された、もう100年にもなる組織だそうだ。創設者の高峰譲吉を初め、大河内正隆、仁科芳雄湯川秀樹朝永振一郎など錚々たる人々の名が並ぶ研究所である。終戦時には研究に使われていたサイクロトロンがGHQの指示で海洋に投棄されるという出来事もあったという。財団法人、株式会社、特殊法人独立行政法人と形態は変わっていったが、さまざまな研究成果を社会に提供し続けている。
 理研全体としては播磨やつくば、横浜や神戸、大阪、さらには英国、米国にも研究所があるという。日本で唯一の自然科学総合研究所なのだが、あまりに大きすぎて近くにあっても近づきがたい存在でもある。
 この和光の研究所は当初、駒込から埼玉県大和町(現和光市)に移転し大和研究所として開所したのだと言う。この研究所が年に1回、一般に公開される。どのような研究が行われているのか少しでも触れてみたいと4月の土曜日、わくわくしながら訪れてみた。
 今回の目当ては「HOKUSAI GW」というコンピュータと超伝導リングサイクロトロンの実物を見ることである。
この和光研究所は広大な敷地の中に研究施設がいくつも分散して建てられている。職員の生活する宿舎や保育園もあり、緑の空間も適宜配置され、街のような景観である。しかし、巨大なヘリウムガスのタンクが並んでいたり、大型の配電施設があったり、建物の作りも研究室然とした雰囲気がある。一般公開と言うことで移動は徒歩に制限されているので結構大変である。
 この日は第一線の研究者による講演やレクチャーが各所で行われるとのことだが、それを聴いていては一日でこの研究所を巡ることは不可能である。目的のところをめざしながら、その途中でいろいろな研究室におじゃまして展示や説明を聞くという体制を取った。
 たくさんの来訪者で溢れていたが、目立つのは高校生くらいの制服姿の子どもたちである。メモを片手に話を聞いている。説明する人たちも若手のようで専門用語が飛び出しながらも熱心に研究の様子を話してくれた。レーザー光線で冷やした原子を光の格子に閉じこめて正確な原子時計として活用する。病気の早期診断に生かすバイオ工学。iPS細胞を顕微鏡で見る。有機ELによる三原色の活用。電気を作り出す微生物。熱水鉱床の近くで生きている生物。等々、興味深い展示ばかりなのでなかなか歩が先に進まない。
 現在の研究ではさまざまなシミュレーションでコンピュータの活用は欠かせないそうだ。この研究所の「HOKUSAI」は来年には「HOKUSAI BW」にグレードアップが決まっているという。部屋の中に入らせてもらうと床には大きな通気口が設けられ、強力な空調が動いている。ラックの中にはたくさんの基板が積み上げられLEDが明滅している。これだけの大きなシステムになると冷却が大きな問題になるのだろう。ストレージとしてテープも使われているとのことで電力の問題も大きいようだ。これまでのCPUも展示されていて進歩の様子がうかがえた。
 仁科研究所の隣の搬入口から地下の施設に入っていく。原子を加速する仕組みについて模型で説明を受け、実際のサイクロトロンと対面。東京タワー2個分の重さという重厚さである。ここには5つのサイクロトロンがあるとのことで、その間を縫うようにして見学した。約1時間歩いて最終的には地下8階に相当する深さからエレベータで地上へ戻った。SHARAQやSAMURAIという分析装置やビームを生成する4極電磁石など実物を見ることができた。
 基礎研究がしっかりできているからこそ、その先の応用が花開く。年に1回の機会ではあったが日本の最先端の研究の様子に触れることができた。この日、多くの若い人たちの姿を見ることができ、少し安心できた思いである。