XRQ技研業務日誌

ものづくりを楽しんでいます。日々の暮らしの中に面白そうなものを探しながら

「みちのくの仏像」展

みちのくの仏像

 青く澄み渡った空。風は冷たいのだが強くなってきた光には春の気配を感じる一日、上野界隈の散策をしてきた。
 JR鶯谷駅を降りて東京国立博物館に向かう。新たにタクシー溜まりが作られていたり県外車の路上駐車が増えていたりしているが静かな路である。
 本館入り口にはボートが展示されていた。3.11の津波で流され、アメリカ、カルフォルニア・クレセントシティーの海岸までたどり着いたという岩手県立高田高校の実習船「かもめ」である。この船は当時、陸に揚げられて伏せた形で置かれていたため、沈むことなく太平洋を渡っていったようだ。震災の爪痕を見せてくれている。同時開催の「3.11大津波文化財の再生」展の展示の一部のようである。
 「みちのくの仏像」展は特別5室だけで行われているので、一巡りで見終わってしまう感がある。しかし、東北地方に仏教が広まっていく様子を概観するような構成になっており興味深かった。初期の頃の仏像を見ると土着の宗教やその土地の影響を強く受けているのがわかる。会場入り口で迎えてくれる天台寺 聖観音菩薩立像の全身はノミ目で覆われていて樹木そのものを感じることができる。
 牡鹿半島の給分浜にある観音堂に祀られているという十一面観音菩薩立像は3.11のとき高台に在ったために被害を免れ、また地域の人々は観音堂に逃れることで助かり、しばらくの間人々がお堂の近くで生活したのだという。ビデオで紹介されていた村の人の「観音様が自分たちを導いてくれた」という言葉が印象的であった。この像は上半身が大きな短躯に造られている。膝下が極端に短い。これは下から見上げてお参りすることを前提に作られているのであろう。半島の先端の高台に置かれ、沖に出た人々をも見守っている存在のようである。
 東北三大薬師と言われる福島 勝常寺・宮城 双林寺・岩手 黒石寺の薬師如来座像も来ている。一木造りのどっしりとした存在感であり、それぞれの表情から感じ取れるものが異なっている。その中で、黒石寺の薬師様は貞観の大地震も経ている存在で大きな災害を乗り越えてきた力強さがある。
 僧徳一などの活躍によって東北に仏教が広がり、同時に中央との繋がりも強くなってくると仏像の様子も変わってくる。精緻な彫刻になり、奈良や京都などで目にする像とよく似たものとなる。山形 本山慈恩寺十二神将立像は精緻な造形で小さな像ではあるが圧倒される迫力である。
 円空も初期の頃東北を巡っているのだという。その作は鉈の痕を残した荒々しいものではなく、丁寧に彫り上げてある。その中にも円空仏のほほえみが見て取れる。
 短時間の一巡りではあったが、東北を時間的に旅してきたような感覚の展覧会であった。帰りは上野公園を突っ切ってアメ横に入り、御徒町まで歩いた。さまざまな人々が交錯している。みちのくの仏像たちのその後はこんなワールドワイドの時代になっている。