XRQ技研業務日誌

ものづくりを楽しんでいます。日々の暮らしの中に面白そうなものを探しながら

シシオドシ

青色LEDフラッシャー

 それは1通のメールから始まった。私は自分の趣味の世界をホームページとして紹介しているのだが、その中に問い合わせ先を設けている。そこからのメールだった。
 近県に住んでいられる方からの相談で、「光電池で充電し、夜間には黄色いLEDを点灯するガーデンライトという製品がある。その中の回路部分を7色に点滅する回路と入れ替えたが動作しない。アドバイスが欲しい」という内容であった。
 その装置をどのように使うのかを尋ねると、「イノシシ除け」だという。牛やイノシシなど偶蹄目の動物は2色型の色覚があり、赤や緑は灰色と同じように認識されるが、青系統の色はわかるらしいとのことである。そのため、青色の光を点滅させて神経質なイノシシを寄せ付けないようにしたいとのことであった。
 動物の色覚についてはあまり考えたこともなかったので調べてみると、昆虫や魚、鳥にも色覚があり、夜行性のほ乳類では色覚が衰えてしまっている種類もあるとのことだった。猿は色覚が弱く夜間の行動ができないのに対して、昼行性のイノシシは青色を認識でき夜間の行動も多いという。青い光を点滅させることで警戒心を煽り、畑への進入を防ぎたいと方策を考えているようだ。鳥獣害の防止のための装置は、カカシや鳴子などを総称して「鹿脅し」(シシ脅し)というそうだが、イノシシ脅しを作りたいとのことであった。
 その方から提示された装置の回路を検討してみると、そのまま入れ替えることは難しそうである。そこで「青色LEDの畑周りでの点滅」という機能だけに絞って回路を考えてみた。
 光電池での充電ということはやめて、ふつうの電池を使うことにする。できれば電池1本だけでやりたい。しかし、動作させるには電圧が低いので工夫が必要である。そこで思いついたのがチャージポンプ式のLED駆動回路である。コンデンサーと電池を並列にして電荷コンデンサーに溜めておき、コンデンサーと電池を直列にすることで2倍の電圧を得てLEDを光らせる回路である。これなら消費電流が少ないので小さな電池でも長持ちしそうである。そして、コンデンサーに充電したり発光させたりする駆動回路には弛張発振回路を使うこととした。この回路は別名”ししおどし”と言われる。コンデンサーに電荷を少しずつ溜めていって、いっぱいになると一気に放出し、また電荷を溜め始めることを繰り返す。日本庭園に置かれている鹿脅し(添水・僧都)のような動作をする回路である。
 回路が決まればブレッドボードに組み上げて動作確認を行う。最初は思い通りに動いてくれなかったが、回路定数を変えていくうちに落ち着いてきた。約1秒間隔で青色LEDがフラッシュする。青い光の点滅は昼間ではあまり目立たないが夜間になると結構明るく感じる。
 イノシシは学習能力にも優れていると言うことなので、このようシシ威しでどの程度効果があるか定かではない。実験をしようにもこのあたりではタヌキはいるもののイノシシは見かけないのだから。
 一通のメールから始まったプロジェクトだったが、動物の生態を検索したり回路を模索したり楽しむことができた。メールをくださった方に感謝である。
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