XRQ技研業務日誌

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チーム・バチスタの栄光

チーム・バチスタの栄光

 今年は秋の期間がとても短いようだ。暑い日が長く続いていたが、「暑さ寒さも彼岸まで」という言葉の通り、彼岸を過ぎたら急に気温が下がってきた。タオルケットで寝ていたのが毛布がほしくなり、さらに上掛けがほしくなっている。半袖のポロシャツで過ごしていたのが、長袖のシャツになった。朝などは上着がほしくなる。夏から冬支度への急激な移ろいである。

  チーム・バチスタの栄光
      2006 海堂尊 宝島社

 第4回「このミステリーがすごい!」大賞受賞作であり、海堂尊のデビュー作である。
もとの題名は「チーム・バチスタの崩壊」であったが「チーム・バチスタの栄光」として発刊された。崩壊から栄光への真逆の変更だが、物語を読んでみると納得できる変更である。

 図書館から借り出すと表紙にはいくつもの傷が付き、ページの装丁も緩んでいて新本のきりりとした清々しさがない。多くの人の手を経てきた様子がありありとわかる状態であった。それだけ人気があった作品のようである。
 この作品の後に出された海堂尊の作品を楽しんできたのだが、そこで感じたスピード感や生活感、医者という立場での見方など、共通する雰囲気を既に持っていろ。
 この物語から海堂尊が主張している「オートプシー・イメージング(Ai)」導入の端緒になっている展開である。
 心臓肥大症への対応として開発されたバチスタ手術。アメリカでの実績をひっさげて日本で新たなバチスタ・チームが作られ成功を続けていたが、ある時から術死が起き始める。病院長から原因解明を特命されたのが不定愁訴外来、別名愚痴外来の田口講師であった。カルテを調べ、関係者の聞き取りをし、手術を観察するがまたも術死が発生してしまう。そこに助け船として入り込んできたのが厚労省大臣官房付という肩書きの白鳥技官。
 関係者のバックグラウンドをあばきながら、病院内のリアルな描写で謎解きが進められる。人が意図的に心臓の動きを止め、心臓自体にメスを入れ、再度蘇らせるという究極の手術。死を覚悟しての術死では司法解剖は憚られ、原因解明はなかなか進まない。
 物語の終末では遺体を損傷しないMRIによる死亡時画像病理診断(Ai)が導入されあっけなく死因が究明される。
 患者の生命を救うために究極の状況で行われる手術の成功率は100%ではない。たまたまの不運が重なっての死、医療事故、そして悪意による殺人。一縷の望みをかけて行われる手術には一方でもしものことが起こるかも知れないという覚悟も込められている。不幸な結果になってしまった場合、遺族としては「安らかに送りたい」という気持ちになるのが当然であり、原因の究明が為されないままになることが多いという。
 この作品の後、海堂尊の著作として講談社ブルーブックスから
「死因不明社会」Aiが拓く新しい医療
  「死因不明社会2」なぜAiが必要なのか
が出されている。
 この小説は展開が大ざっぱ過ぎるという感じもあるが、ミステリーを楽しみながら、現実社会に取り残されている課題に気づかされるというプロセスは有意義だと思った。