XRQ技研業務日誌

ものづくりを楽しんでいます。日々の暮らしの中に面白そうなものを探しながら

グスタボ・イソエ

磯江 毅

 八月に入っているが、夏らしい太陽が顔を見せない。このところ5日間の日照時間は昨年同時期の17%に留まっているという。日によっては日照が全くなかった日もある。そのため気温も上がらず、電力消費量も供給可能電力の75%程度で推移している。節電への取り組みがさまざまなところで行われ成果を上げているようだが、天候不順による成果も大きい。これで急に夏の気圧配置になったとき、どうなるのか不安でもある。

 磯江 毅(いそえ つよし、1954年 - 2007年)
53歳という若さで亡くなったマドリード・リアリズムの異才、磯江毅(Gustavo Isoe)の展覧会が練馬区立美術館で行われている。
 写実を追求した画家で、写真と見まがうような作品である。板の上に油彩で木の板が描かれ、その上に静物が置かれている。地の板がそのまま出ているのか、描かれた板なのか近づいてみても判然としない。ささくれ立っていたり、節があってゆがんでいたりする木の板の質感がそのまま出ている。ザクロやタマネギがそれぞれの堅さと柔らかさをもったまま、その時間経過を醸し出しながら描かれている。
 写真のような写実ではなく、底知れないテクニックを駆使しながら、その対象の存在を描いている。人物画では着ているセーターの柔らかさや肌のぬくもりが伝わってくる描写である。解説によると一枚の絵を完成させるのに何ヶ月も、時には何年もかかって描いては消し、消しては描いてその人の存在を描こうとしたそうである。そのためスペインのモデルが大変協力をしてくれたと書き残している。
 対象を見つめる鋭い目は、作品の中にも描き込めれている。静物の中にガラスが描かれていて、そのガラスにかすかに映る画家の顔が描かれているのだ。静物を見つめる画家と、その静物の中のガラスに映る画家。描く対象と画家との関係を作品の中に閉じこめている。
 細部までしっかりと描き込まれている作品なのだが、画家の目が何を見ているかがわかる。焦点がしっかりと合っている部分とかすかに焦点がずれているところがある。作品と向かい合うと自然とその焦点が合っているところに惹きつけられる。
 裸婦のモノトーンとカラーの作品が展示されているが、どれもすばらしい。肌の温かさぬくもり、柔らかさやなめらかさが伝わってくる。背景が硬質な床の上の新聞紙であれ、ベッドの上のシーツであれ、ソファーの上に横たわっているのであれ、その素材感の中に美しい裸婦がいる。最後のコーナーは磯江の未完の作品である「横たわる女」が展示されている。50歳になってから大学の解剖学教室に学び、皮膚の下の筋肉や血管の様子まで絵の中に描こうとしたという作品である。
 写実とは何かということを作品を通して教えてくれた展覧会であった。