XRQ技研業務日誌

ものづくりを楽しんでいます。日々の暮らしの中に面白そうなものを探しながら

トラップEFHW

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もう一つのトラップは後ろに隠れている

 複数のバンドで使用できる、エンド・フェッド・ハーフウェーブアンテナ(Trap EFHW)は以前、自己流で作り、今もメインアンテナとして使っている。基本は半波長のアンテナの端にインピーダンス変換トランスをつけて給電するものでツエップアンテナとも呼ばれるものである。バンド毎にアンテナ長が異なるので、1本のエレメントに複数の波を乗せるのは難しいのだが、トラップを使うことで、複数のバンドで使えるように工夫したものである。
 トラップとは「わな」という名のように、ある周波数にとっては障害になるような回路である。LとCの並列回路では、共振状態の時、そのインピーダンスが最大となる。あるバンドの半端長になるアンテナ線の端にその周波数に共振するLC並列回路を取りつければ、それより先にあるワイヤーはアンテナとしては切り離された状態になる。その周波数以外ではこの並列回路を通り抜けてその先のワイヤーもアンテナとして機能する。

 アンテナの仕様として定めた一番高い周波数で、給電点に近い方のエレメントを作り、その周波数の並列共振回路を挿入する。次に、エレメントを追加し、二番目に高い周波数で同調するように追加したエレメント長を調整する。そしてその周波数で共振するLC並列回路を取り付ける。同様に、エレメントを追加し、一番低い周波数で同調するよう長さを調整する。途中にトラップを2つ入れることで3バンドで使えるEFHWとすることができる。
 私はトラップの構成を14MHz用と10MHz用とし、7MHzでも使用できるアンテナを目指した。製作して実測してみると、各バンドでの最良点の位置が計算通りにはいかず、エレメントの長さをカットアンドトライを繰り返し、満足できる長さに調整した。
 
 このマルチバンドEFHWアンテナがQRPGuysから QRPGuys Multi-Band End Fed Antenna, 40/30/20m として頒布されているのを見つけた。製作マニュアルをダウンロードすることができる。とりあえず、マニュアル通りで製作してみた。小さなコアを使っているので大変コンパクトになっている。伸展して測定してみると、SWRが思い通りの周波数で下がってくれず、異なる周波数に同調しているようだった。エレメント長を調整しなくてはならないかと考えたのだが、もう一度マニュアルを読んでみると、カウンターポイズを使う旨が書かれていた。そこで、ワイヤー1本だけだがカウンターポイズを取り付けて測定してみると、3つのバンドの所定の周波数でSWRの最良点を見出すことができた。マニュアル通りに製作して調整をすることなく、Trap EFHWの完成である。

 アマチュア無線の面白さは、こうした試行錯誤の中から様々な学びを得られることである。そして、実際に試してみる楽しみがある。このシンプルなアンテナをフィールドで使いたい。どこの局と繋がるのか楽しみである。

「宇宙から帰ってきた日本人」

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 アポロ11号の月面着陸からすでに半世紀が経過した。宇宙への挑戦も様々な分野で行われ、宇宙への知見も深まっている。宇宙へ行った日本人は、これまでで12人だそうだ。その中には何度も宇宙へ行っている人もいるので、その人々から多くの情報がもたらされている。「宇宙よ 秋山豊寛との対話」立花隆著、「宇宙へ 出張してきます」古川聡著、「ぼくの仕事は宇宙飛行士」若田光一著、「毛利衛、ふわっと宇宙へ」毛利衛著、など、宇宙飛行士自身が書いた著作やインタビュー記事など、宇宙への様々な関心からの情報を得ることができる。この本は「宇宙飛行士が宇宙に出て何を感じたか」をテーマに12人の人々にインタビューしたものである。
 「離見の見」という言葉がこの本の中に出てくるが、地球を離れ、宇宙から対象としての地球を見たとき、人は何を感じるのか。宇宙とはいっても、地球の周りをまわっているISSでも、地表から400kmしか離れていない。大気圏を飛び出し、重力を感じなくなった地点で、ほんの少しの高みから地球を眺めるという状況である。「はやぶさⅡ」が飛行している惑星間の宇宙とは全く別のところだとは思うが、それでも、誰もが未体験の領域に身を置いたとき、何を感じるのかはとても興味を惹くものである。
 12人の飛行士のインタビューを読んでいくと、当然だが、それぞれ異なった感じ方をしている。先人の経験が伝えられ、それをもとに訓練を積んでいるのだから、自身は未体験であっても、知識としては先人の経験を吸収し、新たな挑戦をすることになる。私たちがこの世に生まれて育つ過程においても、その時代までの人類の経験を踏まえて生活していくのと同じなのだろう。先人の経験が文化として自然に身についているのだ。
 宇宙に出た人々はその経験を伝えようと様々な試みをしている。著作であったり講演であったり、映像であったり、詩作であったり。しかし、「言葉が見つからない」という言い方がよく使われる。その時受けた感覚、心に迫ってきた感動、圧倒的な力を感じるという状況を表現することが難しいという。特にISSの中から見ていた地球を、船外活動で外に出て地球を目の前にした時の体験をどう表せばよいかという記述が多い。

 地上から空を眺めている身にとっては、想像を膨らませるしかないのだが、街の明かりを見ることができるようなほんの少し離れた地点から地球を見ることで様々な思いが湧き上がってくるという経験を聞かせてもらった。
 2024年までに月面に人を送り込む「アルテミス」計画が発表されている。2020年には野口さんと星出さんが再び宇宙に滞在する予定がある。そして、「はやぶさⅡ」がリュウグウからのサンプルを持ち帰ってくる。宇宙とは、地球とは、人間とは・・・思いを抱かされることが山積みである。

エレキー

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パドルと一体化したエレキー

 

 モールス符号は基本的には電鍵と呼ばれるスイッチで電流を断続させることで送ることができる。しかし、デジタル的にきちんとした長さで符号を構成することには熟練を要する。短点・長点・スペースを1や3の割合でしっかり送出しなければならないからだ。
 モールス符号は論理的に作られているのでアナログ的に手送りすることが難しいのだが、逆に考えるとロジックで機器を構成すれば容易にきれいな符号を生成することができる。今ではマイコンを使えば、プログラムを組むことで、この動作を容易に行わせることができる。エレクトリックキーヤーはこうした回路を組み込むことで、パドルといわれる2つのスイッチの操作でモールス符号を生成する装置である。
 最近の無線機はほとんどがコンピュータが内蔵されているので、このエレクトリックキーヤーの機能が備えられている。そして、メモリーなど様々な機能も無線機を操作することで使うことができる。しかし、実際の運用においては、メモリーは2つくらいあれば用は足りるし、パドルを使って符号が出せればよい場合が多い。
 そこで、手元で操作できるように、パドルと一体化したキーヤーを構成した。このキーヤーの出力を無線機につなぎ、送信動作をさせる。相手局が定まってしまえば、無線機に手を伸ばさなくても、この手元のキーヤーを操作するだけで交信することができる。

 アクリル板の弾性を利用したパドルの基台に垂直に別のアクリル板を取り付け、エレキー基盤と一体化した。キーヤーの2つのメモリーを押しボタンで選択できるようにしている。自局のコールサインを記憶したチャンネルと、CQを記憶させたチャンネルとして使っている。軽量でありコンパクトなので片手ではこのパドルが動いてしまうので、もう一方の手で押さえる必要があるが、この手元のパドルだけで大方の交信は行うことができる。

 キューブ型のスペーサーとアクリル板、接点には六角柱のスペーサーとビス・ナットというあまりにも簡易な構成でパドルを作った。そのため、操作性や接点の接触不良などを危惧したのだが、実際に使用してみると杞憂であった。接点の調整には多少手間がかかるが、一度調整してしまえば快適に使うことができる。何よりも、安価であり、工作が容易で、いろいろと試行錯誤を楽しむことができる。
 「案ずるよりも産むが易し」とはこのことのように思う。アマチュアならではのものづくりを楽しんでいる。

Photo Book

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文庫判のフォトブック

 手軽に写真を楽しめるサービスを見つけた。自分で写真を選び、コメントを付けて製本してくれるサービスである。これまで、ブログをまとめて製本してくれるサービスを利用したことがあったが、そのサービスはデータがアップロードされていないと利用することができなかった。もっと手軽に、手持ちのデータで本が作れたらと思っていて、見つけたサービスである。何より安価で、少ないページ数でも製本してくれるのがいい。

 デジカメになって写真を撮ることが多くなった。フイルム代を心配しなくてもよいので、撮る枚数も多くなっている。撮った写真は画面で見ることが多いのだが、気に入った写真は店で印刷してもらい飾っている。フレームの中を入れ替えながら楽しんでいるのだが、ひとまとめにしておきたい写真もある。アルバムにまとめればよいのだが結構手間がかかる。そこで、この製本サービスを利用したのだ。

 何冊か作ったが、文庫本サイズのものである。「我が家の庭 草花」「我が家の庭 花木」「野鳥との出会い」等々。写真を選び、入力順を決め、コメントを入れる。あとがきにこの冊子のねらいを記しておくようにした。入稿はネットでの作業になるのだが、入稿までの作業はパソコンを使って、データを探したり、レイアウトを考えたり、原稿を書いたり、家族の共同作業になり、結構楽しかった。出来上がってくるまで1週間ほどかかったが、小さな写真集として手軽に手に取って眺められるものになっていた。

 せっかく撮った写真である。データのままではもったいない。お気に入りの一枚を身近に飾っておきたいものである。今回利用した製本サービスは12ページから60ページまで対応可能のようである。60ペーでは1ページ当たりの値段がL判の写真を印刷してもらうよりも安価になる。
 さて、次はどんなテーマで1冊をまとめようか、構想を練るのも楽しい。

目からうろこ

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基板を分離して回路をトレース

 JL1VNQ小野さんから提供いただいた、VN3002を組み立てている。前回、VN4002がうまく動作せず、小野さんに助けていただいたので、今回は自力で完成させたいというリベンジである。
 このキットは表面実装部品で構成されている。基板上で部品の間隔を広くとっていて組み立てやすいように配慮されている。半田ごても変え、ハンダ付けについて再度学びなおし一つ一つの部品を注意深く組み込むように心掛けた。しかし、部品がとても小さく、コンデンサは1mmにも満たない大きさで、ルーペを使わなくては作業できない難しさである。通常はマウンターという機械による実装が行われるのだが、それを手作業ではんだ付けをする。ちょっと油断すると部品がはんだごてに張り付いてしまったり、ピンセットで挟もうとした瞬間に弾き飛ばしてしまったり、気の抜けない作業だった。
 とりあえず、すべての部品の取り付けが終わり、調整の段階になった。しかし、正常に動作していない。このキットは2枚の基板を重ね合わせる構成になっていて、基板を確認するには重ね合わせた内側で作業しなければならない。2枚の基板の間の狭いスペースにどうやって測定器のプローブを差し込んだらよいのか悩んでしまった。
 小野さんにヘルプを求めると、思いがけない助言を得た。基板を分離してリード線で接続し、動作させながら作業するという方法である。目からうろこのアイディアである。考えれば当たり前なのだが、重ね合わせて動作させるということに固執していて、思いつくことがなかった。
 さっそく2枚の基板を分離して、リード線でつなぎ、動作させてみた。送信部が出力が出ていない問題については、電源の流れと、信号の流れをトレースしていくと、ロジックICへの電源が来ていないことがわかった。三端子レギュレターからの出力がない。この部品を取り外し、手持ちのスルーホール部品で代替させた。これで、送信出力が出るようになった。
 受信部も、動作していない。スピーカー出力に近い方から順に信号をトレースしていく。コントロール部からの信号やキーヤーのサイドトーンは正常に出ている。AF段は大丈夫のようである。中間周波数増幅部もノイズを確認できるので大丈夫そうだ。DBMへのローカル周波数入力も確認できた。高周波増幅段からの信号が来ていない。この辺りに動作しない原因がありそうである。FETの向きを逆にしてしまった可能性もある。この部品は向きを示す小さなドットが記されているのだが、何回ものフラックスの清掃で消えてしまっている。また、DBMは6本足で取り外しが難しい。さて、どうやって取り組むか、まだまだリベンジへの道は遠い。
 青鬼といわれるこのキット、鬼という名前がふさわしい。今回、小野さんの助言で基板を分離して調整を行うという、目からうろこの方法を学んだ。こういう新たな発見があり、謎解きの迷宮があるから自作はおもしろいのだ。

スペース

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モールス符号の構成

 

 夢や不思議がたくさん詰まっている宇宙空間ではない。また、居場所がないというような空間でもない。文字と文字の間の空白という意味合いのスペースである。

 モールス符号は音があるかないかの時間的流れの組み合わせとして構成されている。短点を1とすると、長点を3とし、音の間を1,文字と文字の間を3,そして、語と語の間を7という構成である。短い音と長く続く音を区別し、その音の組み合わせで文字を構成している。音に注意が行きがちなのだが、その音が意味をなすためには音のない空隙(スペース)の時間が大事なのだ。
 たとえば、短点一つではE、長点ではTを表す。短点の後に短点の長さ以上のスペースがあるとEとなるが、短点と同じ長さのスペースの場合には次の音と組み合わされて別の文字になる。短点の次に長点がきて、そのスペースが短い場合には2つの音でAとして認識される。また、短点の後に長点分のスペースがあれば、短点とは別の文字として認識され、ETとなる。

 このスペースをしっかりと作らないと符号がわかりづらくなり、通信に混乱が生ずる。
 モールス通信では平文で行う以外に略語を使う場合が多い。Thank youという意味でTKSやTNXという符号列を送ることで「ありがとう」という意味を伝達するのだ。同じ意味でThank YouをTUと略すこともある。交信の最後、お互いに挨拶を送りあい、GB GoodByeやCUAGN SeeYouAgainを送信する。そして最後にXと送ってくる局がある。このXがどういう意味なのかわからなかったのだが、最近、気がついた。XではなくTUだったのである。Xは-・・-、TUは- ・・-なのである。文字間のスペースが短くなって別の符号になってしまったのだ。
 また、先日、CQを出していく局を見つけ聞いていたが、その局のコールサインがわかりづらい。ようやく解読して呼びかけた。すると、相手局からコースサインの訂正を求められた。コールサインの一部をUUとして送ったのだが、相手局はIXだという。Uは・・-、Iは・・、Xは-・・-である。IとXがくっついてしまうと・・-・・-となり、聞き方によってはUUと聞こえてしまったのだ。文字間を短点3つ分以上空けていないことからの誤認である。

 最近はエレクトリックキーヤーが普及し、電子的に長点と短点を生成し、スペースもある程度自動的に入れてくれる。しかし、スペースを1短点分なのか、3短点分なのか、7短点分なのか、意識的に区別して入力しないと、エレクトリックキーヤーでも誤った符号列になる場合がある。モールス符号は単純で人が耳で聞いて直接認識できる語である。相手に伝わってこそ意味のあるものだ。スペースを意識してしっかり符号を構成することを大事にしたい。

エマージェンシー パドル

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エマージェンシー パドル

海外のフォーラムで、簡易パドルが話題になっていた。タクトスイッチを3.5mmφのプラグに直接取り付けたものである。大変コンパクトに作れるので、アクセサリーのようにして紐を付けておけば、邪魔にならないし、忘れることがないというものである。
ここで言うパドルとは、エレクトリックキーヤーという電子回路で自動的にモールス符号を生成するために、モールス符号を構成する短点(Dit)と長点(Dah)を送出させるためのスイッチである。タイミングよく長点、短点、スペースを送り出すために、このスイッチを指で挟むように操作する。一方のスイッチをオンにすると長点が送出され、他方をオンにすると短点を送出する。
簡単なスイッチなのだが、エレクトリックキーヤーでは、このパドルがないとモールス符号を送り出すことが難しい。移動運用などの際、パドルを忘れてしまうと、大変なことになる。フォーラムでは、そのような際の非常用パドルとして、このパドルを考えたのだとのことであった。
触発されて、手持ちの部品で作ってみた。確かにパドルとしての機能は持っている。しかし、使いづらい。タクトスイッチが思いの外、堅いのである。普段、何気なく押しボタンスイッチとして使っているタクトスイッチではあるが、パドルとして高速でオン-オフを繰り返す操作には向いていないと思った。軽く触れただけで操作できるものが望ましい。

 

私がモールス符号での交信を始めた頃である。まだ、真空管式の送信機が使われていて、エレクトリックキーヤーが話題になり始めていた。そのころCQ誌のコラムに載った記事があった。今回のフォーラムで話題になっていたと同じような発想である。パドルを忘れた時の非常用としてプラグに細工をしてパドルを作ったという記事である。そのころは6.3mmφのプラグが主流で、そのプラグに金属片を取り付けてパドルにしたというものである。エレクトロキーヤー自体がCRの時定数を利用したものやロジックICを組み合わせたものなどが最先端の技術であった頃、こんな簡単な細工でモールス符号が出せるという記事に大変興味をそそられ、覚えていたのだ。

 

今使っているのはほとんど3.5mmφのプラグである。その端子にリード線を取り付け、パドルの機能を持たせた。リード線の付加だけであるので、そのままカバーを被せることもできる。カバーをしてしまえば、線のついていないプラグに見える。この簡単な工作で、軽いタッチのパドルができあがった。指で軽く触れるだけでモールス符号を送出できる。エマージェンシーパドルの誕生である。

しかし、あまりに小さいパドルなので、どこかに紛れ込んでしまうおそれがある。やはり、紐を付けてアクセサリーのようにしておかなくてはいけないようだ。