XRQ技研業務日誌

ものづくりを楽しんでいます。日々の暮らしの中に面白そうなものを探しながら

QSOのためのパッケージ

Package for QSO

 かつて軽薄短小という言葉がもてはやされたことがある。なにごともコンパクトにまとめてしまおうという流れだったように思う。
 無線をする場合、電波を出すためにはさまざまな装置が必要であり、移動運用する時にはたくさんの荷物を持っていかなければならない。どれ一つとして疎かにできず、忘れ物がないよう何度も確認するのが常である。そのため、忘れ物のないよう移動用の機材を一つにまとめておくのだが、結構大きな荷物になってしまう。
 そこで、電波を使って交信するための最小限の機材を小さくまとめるべく、チャレンジしてみた。まだまだ工夫の余地があるが、110×150×50mmという大きさにまとめることができた。容積として825000立方ミリメートル、825立方センチメートル、すなわち0.825リットルという大きさである。この大きさならバックの片隅に忍ばせておくことも可能である。
 このセットはHF(短波帯)で電信を使って交信できる装置である。トランシーバーは7MHzと14MHz帯での運用が可能な初代のMountainTopperというリグ。掌に載る大きさだが2W程度の出力がある。DDSという仕組みで周波数を制御しているのでバンドの中を自由に動くことができ、周波数も安定しているリグである。
 電波を空中に放出し、また受けるためにはアンテナが必要である。ワイヤーを伸展し、そこに電波を乗せるのだが、このワイヤーが結構、嵩張る。特にトランシーバーからアンテナまで電波を送るための給電線が太く、曲がりにくい、くせ者である。そこで、この給電ケーブルを使わない方式をとることにした。アンテナ線をチューナーという装置使って直接トランシーバーにつなげる。EFHW(End Fed Half Wave)というアンテナで、小電力での運用ならではの使い方である。(高電力ではアンテナに高電圧が掛かるので大変に危険なのだ)
 ワイヤーアンテナは絡まりやすく、取り扱いが難しい。そのため、巻き取りの工夫をして絡まないよう、8の字に巻いてコンパクトに収納する。
 次に必要なのは電源である。最近、リチウムイオン電池が普及してきた。小さな電池でも高容量のものが手にはいる。単三乾電池とほぼ同じ大きさで3.7Vの電圧が得られるもの(14500)があり、これを2本直列にして使うこととする。長時間の運用はできないが数時間の運用は可能である。
 その他、受信音を聞くためのイヤフォーン、電信を送るためのパドル、運用状況を記録するためのメモ帳・筆記用具、無線局に必須の時計と無線局免許状、無線従事者免許証が必要である。時計や免許関係は別に持っていくとして、それ以外のものをまとめてポーチに入れたのである。
 実際の運用ではアンテナを伸展するための支柱なども必要だが、立木などを活用するとして、セットには含めていない。
 最近は伝播のコンデションがとても悪いのだが、自然の変化は気まぐれである。時に急にコンデションが上がり交信が聞こえてくることがある。このセットのような小さな構成で、どんな遠距離と交信することができるか楽しみである。

EFHW Tuner

SWR表示EFHW Tuner

 この頃の伝播コンデションは恐ろしく悪い。普段なら多くの局が聞こえてくるバンドでも時間によってはノイズしか聞こえないことがある。高いバンドになると開けていることのほうが稀である。リグの電源を入れてもぐるぐるとダイヤルを回すだけで、全くの空振りになることが多い。
 そんな時は、はんだごてを握って製作に没頭するのも一興である。製作の面白さは試行錯誤を繰り返し、うまくいかない原因を一つ一つ潰しながら、パズルを解くように、あれやこれやと考えを巡らせることである。そして、その末にその機器が思い通りに動作を始めた時、大きな達成感が得られる。これを体験してしまうと、もの作りから抜け出せなくなる。
 先日来、アンテナの整合表示回路の実験を繰り返してきた。アンテナが効率よく動作するためにはさまざまな要素が絡み合ってくる。更に、アンテナは伸展する状況によって特性が大きく変化するため、理屈通りには動作してくれないのだ。そのため、使用するその場での調整がどうしても必要になる。公園や山などで移動運用する場合、その限られた状況のなかでどうにか運用できる妥協点を見つける工夫が必要なのだ。
 移動運用の場でアンテナに手を加えることは難しい。リグも同様である。リグとアンテナはとりあえずそのまま使い、それらをつなぐ整合をより良くしていくことが重要になってくる。リグから出て行く電波ができるだけ反射して戻ってこないよう調整するのだ。これを定在波比(SWR)というのだが、進行波に対して反射波をできるだけ小さくするように調整する。安易な方法だが移動運用での妥協点である。
 あらかじめ使用する周波数の半波長になる長さのアンテナエレメントを用意し、理論的な同調を取っておく。そしてチューナーを使ってリグとの整合を取る。整合の状況を反射波の少なくなるところを目安にするのである。
 回路としてはとてもシンプルである。手持ちの部品を寄せ集めて組み立てた。しかし、動作を確認しても思い通りに動いてくれなかった。何度も回路図とにらめっこをし、回路を組みなおし、はんだ付けをやり直したのだが解決しない。トラブルの泥沼に長い間漬かっていた。そして、ふとしたことで大きな過ちに気づいたのだ。
 動作確認をするとき、ダミーロードとして50Ωの抵抗を使っていたのだが、このチューナーはEFHWを想定して設計してある。つまり、数キロΩになる給電点インピーダンスを50Ωに変換するトランスフォーマーの役割をしているのだ。だから、ダミーロードとしては数キロΩを使う必要があったのだ。気づいてみれば笑い話なのだが、泥沼からの脱出は容易ではなかった。
 こうして組み上げた「SWR表示EFHW Tuner」は思い通りコンパクトで、それなりの動作をしてくれている。もの作りの醍醐味を味わえた製作であった。 製作のページ

メジロの群れ

庭先のメジロ

 このところ庭先にメジロの群れがよく来ている。どうも朝方と夕方が多いようである。十数羽がかわいい鳴き声を立てながら飛び回っている。動きがとても速くて、こちらの藪から向こうの木の枝に、そしてまた屋根の上にと忙しい。近くに柿の木があり十分に熟れた実が残っているのだが、ときどき突っつきに行くくらいで、それだけが目当てではないようだ。紫陽花の株の中に入って、出始めた芽を啄んだり、カラタチの花を啄んだり、いろいろな餌を取っているようだ。ムクドリヒヨドリに威嚇されながらも、意に介さないように群れになって戯れている。
 枝に留まって休んでいる時、ふとこちらの気配を感じたのか白く彩られたまん丸の目で見返す姿が愛おしくなるほど可愛らしい。
 そんな小鳥たちの声を聞きながら、半日をデバッグに費やしてしまった。以前製作した機器なのだが、多少動作を変更して製作しなければならなくなった。プログラムソースを探したのだが行方不明。仕方なく記憶をたよりにプログラムを書いた。しかし、本体部分の動作は思い通りにいったのだが、割り込みを入れて動作を変更する部分がうまくいかない。
 この部分はPICの割り込み機能を使っている。割り込みをすると動作が止まってしまうのだ。コンパイルは正常にできているので、文法に誤りはなさそうだ。レジスターの設定がいけないのかといろいろ変えてみるが直らない。あれやこれやと半日が経ったころ、変数の定義に気がついた。プログラムの始めに変数の定義を入れてあるのだが、割り込みを記述する行の中にも変数定義が入っていた。割り込みのサンプル記述に倣って書いていたのだが、同じ変数について重ねて定義を書いてしまっていたのだ。
 わかってみれば単純なミスだが、見つけ出すまで半日掛かってしまった。この部分を修正するために、プログラムの中に参照を意味する「’」ダッシュを一つ入れて変数定義をプログラムから切り離すだけで解決である。
 せわしなく飛び回るメジロの群れはもう姿を消していた。またどこかの餌場に行っているのだろうか。ねぐらに戻ったのだろうか。私が小さなチップの論理に翻弄されているうちに、小鳥たちは大きな鳥たちの目をくぐり抜けながらも、のびのびと過ごしていたようである。

Matcing indicator

Taylor indicator

 アンテナの調整は奥が深い。QRPの運用では、アンテナにいかに効率よく電波を載せ、放射するかが重要になる。元々の電力が小さい上にアンテナで減衰したのでは電波の届く範囲がますます狭くなってしまう。小さな電波を効率よく送り出すことはとても重要なのだ。
 より強く電波を放射するためには放射効率の良いアンテナに送信機からの電波を効率よく送ることが必要である。私の場合、EFHWというアンテナを使っている。使用する周波数に共振する長さ(1/2λ)のエレメントの端から給電するタイプで、給電点のインピーダンスがとても高いうためトランスフォーマーを入れて送信機のインピーダンスと整合を取って使っている。
 しかし、設計上のエレメントの長さでは実際に伸展すると周囲の影響を受けて設計通りには動作してくれない。給電点のインピーダンスはアンテナの設置状況によって大きく変化する。そのため、実際の設置条件で、より効率よく電波が放出するように調整する必要がある。受信状態でアンテナを調整すると、すーっと感度が上がるところがある。送信と受信は電波の出・入りであるので入りやすい状態は出やすい状態でもあるといえる。おおむね、その感度の良くなった状態が調整の取れた状態と考えることもできるのだが、さらにしっかり調整したいところである。そのため、アンテナアナライザーやSWR計などの表示器を使うことになる。
 その表示器のひとつにTayloeさんのブリッジがある。50Ωのブリッジの一つをアンテナとし、アンテナのインピーダンスが50Ωになってブリッジが平衡すると中点の電流が流れなくなることを利用した表示器である。アンテナのインピーダンスを50Ωに調整するための機器と言い換えてもいいだろう。
 わずかな部品で簡単に作ることができるのでこれを作ってみた。出来上がったところで、アンテナに繋ぎテストしたのだが、LEDは消灯しなかった。予めアンテナアナライザーでSWRが最小になるよう調整したアンテナである。アンテナと送信機の整合が取れているはずなのになぜLEDが消えないのか。配線を間違えたのだろうか、イモハンダがあるのだろうか、いろいろと調べたがわからない。そこで、同じ部品をブレッドボードで組み上げテストしてみる。アンテナの代わりにダミーロードを使い試してみると、50ΩではLEDは消灯し、その他の値の抵抗では点灯することが確認できた。この回路は正常に動作しているのだ。いろいろ悩んだのだが、ふと思いついて、前の実験で使った整合をとってあったアンテナを繋ぎ、チューナを動かしてみた。するとLEDが消灯する点が見つかったのである。つまり、アンテナアナライザーを使ってSWRが最小になるよう整合をとっていたのだが、そこのインピーダンスは50Ωから大きく離れていたのだ。
 理論的には入・出力側のインピーダンスが同じならばSWRは1:1になるのだが、送信機の出力側が50Ωに設計されているとはいえ、必ずしもアンテナ側を50Ωにすれば整合するとは言えないようなのだ。
 携帯に便利なマッチング表示器としてこのBridge indicatorを製作したのだが、ことは簡単ではないようである。ますます深みに填ってしまった。製作記事

Ham 100年

QSLカード

 JARL(JapanAmateurRadioLeague: 日本アマチュア無線連盟)からQSLカードが届いた。アマチュア無線(Ham)では交信をした証として交信証(QSLカード)を交換することが行われている。人によっては交信数が月に数百に及ぶので、この交換を郵送などを利用すると大変な費用がかかってしまう。そこで各国の無線連盟が連携して連盟間でカードを交換する仕組みができている。もちろん国内においてもHam同士がカードを交換する時、連盟にカードを送ることでカードの交換ができる。
 届いたカードの中にARRLの100周年記念局がグァム島で運用したとき、私が交信できた時のカードがあった。家の周りに張ったワイヤーアンテナと3w程の小電力での電波がグァムまで飛んで行ったのだ。
 ARRLはAmericaRadioRelayLeagueというアマチュア無線では大変に歴史のある団体である。USAでのアマチュア無線は広い国土の中で通信手段を確保するため、互いに通信を中継(Relay)して行っていたということから生まれた団体だという。日本のJARLが無線通信の技術的興味から始まったアマチュア無線の団体ということとは多少異なった成り立ちである。
 そのARRLが100周年を迎えると言うことで記念局が各地で運用され、たまたま交信できたのだが、カードの日付を見ると2014/03/20となっていた。もう2年も前である。
 JARLは今年創立90周年を迎えた。戦前に結成され、中断はあったもののアマチュア無線の火を灯し続けてきた団体である。8J※90Yという記念局が運用されている。
 無線には国境がない。電離層などの状態によって伝播が左右されるが、どこまでも伝わっていく。そのために世界情勢に依ってはさまざまな規制を受けてきた。戦時にはアマチュア無線の運用は禁止され、受信することすら制限されたという。終戦になり、アマチュア無線が再開され、電子技術の急速な発展をも、アマチュアが自由な発想から推進してきた経緯がある。再現性も経費も効率をも顧みず、技術的な興味だけで進むことができるアマチュアだからこそ見いだすことができた技術もある。無線技術の裾野を広げていたのがアマチュア無線だったといえるだろう。
 しかし、どこにでも飛んでいったしまう電波だからこそ、平和な時代でなければ運用できないのもアマチュア無線である。国境を越えて見知らぬ個人と個人が直接交信できることのすばらしさがある。国内であっても見知らぬ土地の人と話ができる楽しさである。そして、より広く交信するために無線機を改良し、アンテナを工夫し、通信技術を鍛錬していくおもしろさがある。
 交信証を紙のカードで交換していたのだが最近ではインターネットを通じて電子情報として交信証を交換することも行われている。不確実なアマチュア無線を高度に発達した通信技術が支えているということも妙なことだが、電信などシンプルな人間的な交信はこれからも生き残っていってほしい思う。人間の五感を活用した通信はものづくりと同様、人の生き様と関わることだと思うからである。

EFHW

Trap EFHW

 EFHWとはEnd Fed Half Wave Antennaのことである。訳すとすれば終端給電半波長空中線ということになるだろうか。ダイポールアンテナのように半波長の真ん中で給電するのではなく、エレメントの一番端で給電をする。つまり、一番端に給電線を介してトランシーバーを繋ぐのである。
 予め使用する周波数に適合するようにエレメントの長さを調整するので、同調は取りやすいのだが、終端部のインピーダンスは大変に高くなり、通常使われるインピーダンス50Ωのフィーダー(給電線)と整合を取るための回路が必要になる。
 ネットを彷徨っていた時、この整合回路として、トランスフォーマーが紹介されているのを見つけた。49:1 とか64:1という比率でインピーダンスを変換する回路である。これを使うと半波長アンテナ終端のインピーダンスが見かけ上50Ω近くにすることができ、整合を取ることができる。
 早速、コアを用意し、トランスフォーマーを巻いてみた。抵抗器を接続して測定してみると、しっかりインピーダンスが変換されるのが確認できた。これを使えば、EFHWができるはずである。
エレメントの長さを計算し、その長さのワイヤーをトランスフォーマーに接続、50Ωの同軸ケーブルを介してアンテナアナライザーでSWRとインピーダンスを測ってみる。確かに、SWRが1に近づき、インピーダンスも50Ωに近くなるところがあることは判明した。しかし、目的の周波数とは離れている。そこで、エレメントの長さを調整すると目的の周波数にその最良点を動かすことができた。トランスフォーマーと半波長のワイヤーでアンテナとして機能するものができたのだ。
 いろいろな周波数のEFHWアンテナを作った。また、エレメントの途中にトラップを入れることで複数の周波数帯(バンド)で使えるEFHWにすることもできた。しばらくこのアンテナを使っていたのだが、状況によって性能が大きく異なることに気づいた。移動運用では、その場所の状況に応じてアンテナを伸展する。十分に伸展できず折り曲げて張ることもある。アンテナは周囲の影響を受けやすいので、製作し調整した時とは大きく異なる性能になる場合がある。トランスフォーマーは所定の比率でインピーダンス変換を行うので、エレメントの設置状況によってインピーダンスが大きく変わった場合には見かけ上のインピーダンスが50Ωから大きく外れ、アンテナとトランシーバーの整合がうまく取れない事態になる。
 そこで、この変換回路を調整可能なものにすることで整合をとることが行われる。チューナーといわれる回路をトランスフォーマーの代わりに用いるのである。チューナーはその整合状況を知るためにアナライザーやSWRメーターのような指示装置が不可欠であり、大がかりなものになる。調整なして利用できるトランスフォーマーのEFHWと、設置場所の状況に対応できるがさまざまな機材を必要とするチューナーとEFHW、それぞれの特性を活かして使い分けていくのが良いようである。
 EFHWの製作は作ることのおもしろさが十分に楽しめる題材である。

ウォーター・リリー

コルチカム ウォーター・リリー

 変わった生態の花です。この季節になると白い穂が土の中から顔を出します。15cmほど伸びると、その先端がほのかに紫がかったピンクが広がります。そして花が開くと柔らかなユリのような形で、とても目立ちます。土の中から花だけが顔をのぞかせているような様子です。
 とても華奢で、風に吹かれたり、ものに当たったりすると、その細い花柄は折れてしまいます。それでも群生して開く鮮やかな色はホット心を慰めてくれる花です。
花の時期は短く、一つの花は1日ほどで萎れてしまいますが、つぎつぎに穂が伸びてきて一面を紫ピンクに染めてくれます。そして花が終わると、何もなかったように痕跡を残さずもとの地面に戻ってしまいます。暫くすると葉が伸びてきて、青々とした草原になるのですが、あの花とこの葉が同じ個体であると理解するのが難しいほど土の中に隠れている期間があるのです。
 この植物はコルチカム・ウォーター・リリーと呼ばれています。土の中では大きな球根が育っていて、ほとんど手入れをしなくても毎年球根が増え、花の咲く地面が広がっていきます。

 亡くなった母が、舗道の街路樹の周りに植えてあったツツジが枯れてしまった後に、この球根を植えたようです。普段は全くその存在を感じさせないのですが、この時季になるとその存在が目を楽しませてくれます。
 舗道管理の業者の方が街路樹の周りの草を刈り取って、それと一緒にコルチカムの花も刈り取られてしまいました。でも、この一角だけは花を残してくれたようです。
 今回刈り取られた場所の花も、また葉を茂らせ、球根を太らせ、また来年も花を見せてくれるでしょう。